ディファレント・ワールド
ソロモン諸島ドル。飛行機の中で受け取りを拒否された。
ブリスベーンは荒れ模様の天気だった。飛行機が高度を落とすにつれて、海に白波が立っているのが分かる。激しい雨風の中を飛行機は着陸。乗客はその中を歩いて、ターミナルビルディングに向かう。僕はまだジャケットを着ているから良いが、ひとりのお姉さんなんかはタンクトップにお尻の見えそうなショートパンツ。ずぶ濡れになって寒そう。W夫人の問い、
「雨が降ったらどうするの。」
の答えが出たような気がする。濡れるしかないのだ。
シドニー行きに乗り換えるM隊員と別れる。余ったソロモンドルの紙幣を、M君にあげる。日本円で千五百円くらい。
「これだけあれば一ヶ月の食費になります。」
とM君は言った。飛行機の中でビールを買った時、ソロモンドルで払えるか聞いたが、スチュワーデスは、ソロモンドルはお金ではありませんという顔で、オーストラリアドルでの支払いを求めた。国内では使いでがあるが、外国では紙屑という通貨の典型。
荷物を受け取って外に出ると、ロビンが迎えに来てくれていた。彼の運転で、エデンス・ランディングに向かう。ソロモン諸島はどうだった、という彼の問いに対して、
「説明するのはとても難しい。一言で言うならば、飛行機でたった三時間の場所に、別の世界(ディファレント・ワールド)があった、そんなところだ。」
と僕は答えた。高速道路を走り、車窓からの風景を眺めていると、「文明」の中に帰ってきたという気がする。たった十日間足らずのソロモン諸島滞在で、そんな気分になるのだから、電気もないウラワ島から、ブリスベーンよりもっと大都会のシドニーに降り立ったM君は、どんな気持ちになるのだろうかと考える。
ロビンの家に着くと、K子さんは餃子を作っていた。彼女もガダルカナル島はどんな所かと聞く。百聞は一見に如かず。僕は、メモリースティックをPCに差し込んで、撮ってきた写真をふたりに見せた。
それから、今晩の「ニューイヤーパーティー」の為に、ロビンと子供たちと一緒に、近所の酒屋へ、酒の買い出しに行った。僕は自分の為に白ワインを買ったが、結局それを飲まなかった。
夕食のとき、「年越しそば」と言うことで、K子さんがそばをゆでてくれた。本当に気の利く人だ。夕食後、K子さん一家は、近くの友人の家のパーティーに出かけると言った。当然、僕も一緒に来るように誘われたが、辞めておいた。喉もまだ痛かったし、明日の長いフライトのことを考えると、今夜は良く寝ておきたかったからだ。
K子さんたちが出かけた後、僕はソファに寝転んでテレビを見ていた。そう言えば、ガダルカナル島では一度もテレビを見なかった。まだ九時過ぎ。外では雨音が聞こえる。ここは何て涼しい場所なんだと、僕はだんだんと遠ざかる意識の中で考えた。そして、何とかベッドまで辿り着くと、死んだように眠った。
大晦日の夕食。「年越しそば」もありました。ロビンは食べたかな。