ソロモンの虹
大晦日の朝、朝の散歩の途中きれいな虹が見えた。縁起が良い。
十二月三十一日。予定外に大晦日をガダルカナル島で迎えることになった。「予定外」とは言えないか。こんなこともあろうかと思って、ブリスベーンで前後二日ずつ余裕をとっておいたのが、功を奏したわけだ。しかし、今日は何としても、ブリスベーン行きの飛行機が飛んでもらわねば困る。ロンドン行きの飛行機は、明日、元旦の昼にブリスベーンから出るのだ。
昨夜はM隊員を寮まで送って行った後、G君はオフィスへ行き、僕はアパートに残り夕食を作った。ソロモン名物「ぶっかけ飯」。自分でも作ってみた。それと鯛のアラで作った味噌汁。食べ終わったとき、僕は何故か疲れ切っていた。頭痛もする。僕は後片付けをG君に頼み、早々と床に入った。
空港でのチェックイン開始が十時、出発が午後一時の予定。時間的にはまだまだ余裕がある。僕は朝六時半に恒例の朝の散歩をした。今日は波止場と市場まで。人々はトラックや船から荷物を降ろし、商品を並べるのに忙しい。雲の多い天気で、小雨が降ってきた。帰り道、空には大きな虹がかかった。
味噌汁の残りでおじやを作って、G君と食べていると、家政婦のおばさんが来た。朝食後、G君がオフィスへ行っている間、掃除と洗濯の合間に彼女と話す。彼女には八人子供がいて、一番上は二十二歳。既に孫もいる。しかし、彼女自身の子供も一番下が四歳だと言う。彼女は僕のことを、G君の弟だと思っていた。改めて友人であると訂正する。
十時にG君の車で、M隊員をピックアップ。出発前、ブリスベーン空港のHPで、ホニアラ便の出発、到着予定を調べるが、本日の便は臨時便であるらしく、検索しても出てこない。何となく不安と懐疑が広がる。M君を乗せて寮を出る時、他の隊員に言われた。
「今日また飛行機が出なかったら、今晩モトさんも一緒に新年のお祝いをやりましょう。」
うーん。それは何としても避けたいパターンだ。
空港に着いて、チェックインをし、荷物を預ける。飛行機は十二時到着、十三時出発予定だと告げられた。チェックイン後、空港と街の間にあるショッピングモール(と地元の人は呼んでいるが実はスーパーと幾つかの店の入った建物)へ行き、出発時間を待つ。G君はその間に買い物をしている。
十二時。再び空港へ向かう。しかし、飛行機は陰も形もない。何となく不安になって、三人で送迎用デッキに上がって、空を見上げる。しかし、飛行機は見えない。午後一時前、
「ブリスベーン行きのお客様は搭乗口にお進みください。」
のアナウンスが入る。まだ何となく懐疑的な僕は、再び送迎用デッキに上がる。白地に緑の波型の線の入ったボーイング七三七型が着陸し、こちらに向かって来るのが見えた。やったー。思わず叫んでしまう。
M君と僕は搭乗口に向かう。G君も一緒に来る。ターミナルビルから歩いて飛行機に向かう時にG君とは別れた。彼の任期は後一年だが、一年だけ延長の可能性もあるという。
「もしおぬしが後二年ソロモン諸島にいたら、絶対もう一度来るから。」
僕はそう言って彼と別れた。臨時便は一時半にガダルカナル島を飛び立った。
飛行機は無事到着。搭乗開始。これで戻れる。でもまた来たい。