礼儀正しい人々
市場でココナッツを売る少年。
はっきり言って、最初は昼間でも、ホニアラの街を独りで歩きたくなかった。外出はいつもG君の車で。外務省の渡航情報にも早朝、日没後は外出しないようにせよと書いてあった。また、暴動の記憶も新しい。おまけに現地の人々は皆黒い肌に眼だけが白く輝いており、日本人にはちょっと取っつきにくい顔である。しかし、数日間ガダルカナル島で暮らしているうちに、人々は、結構、人なつっこい、良い人たちなのではないかと思うようになった。街を離れ少し田舎の方へ行くと、皆、僕たちに、微笑んで手を振ってくれる。
十二月二十七日。朝六時半、僕は少し独りで街を歩いてみることにした。娘のミドリに何枚か絵葉書を書いた。だが、何と、ホニアラの街にはポストが、中央郵便局にしかないのだ。ソロモン諸島には郵便配達制度というのがないらしく、G君やJICA宛の手紙は郵便局の私書箱に留め置き。他の島への郵便は、役場か教会に配達され、そこへ取りに行くことになると言う。僕は、絵葉書を投函しに中央郵便局まで歩くことにした。
独りで朝の街を歩いていて、気がついたのは、すれ違う人々が皆僕に、
「グッド・モーニング」
と笑顔で挨拶してくれることだった。良い人たちじゃない。血の気は多そうだけど。
街を歩いていると、道の至る所に赤いものがこびりついている。血ではないかと一瞬どきっとするが、ビートルナッツの液らしい。緑色の木の実をアルカリ分のある灰と一緒に口に入れると、赤い色になり、一種の催眠効果が得られ、ちょっと良い気分になるらしい。その唾液をあちこちに吐き散らすものだから、道のあちこちに赤い液体の乾いた物がこびりついているというわけだ。
G君によると、ソロモン諸島の島々には、ヨーロッパ人の到来まで酒はなかったそうである。今は、失業率の高さもあり、アルコールが社会問題になっている。G君の忠告も、
「酔っぱらいには近づくな。」
ということであった。
その日、G君は出勤。僕も彼と一緒にJICAの事務所に「出勤」させてもらった。所長のWさんが朝少し顔を出された他、G君の他に現地人職員のジェームス君とレックス君が出勤していた。僕も空いている机で「仕事」をする。僕の仕事、もちろんこの旅行記を書くことだ。今読んでいただいている文章の大半は、その日、JICAのオフィスで書かれたものだ。
昼飯に、飯の上に豚肉と野菜の煮物をぶっかけたものを食う。その後、事務所から五百メートルほど離れた旅行社まで、所用で往復歩いた。炎天下、一キロ歩いただけで、もう頭がクラクラした。
事務所に戻りばてていると、女性隊員のひとりのHさんがやってきた。職場から歩いてきたと言うが、ケロッとした涼しい顔をしている。この気候に慣れるには時間が必要。そして、僕は慣れる前に帰ってしまうことになりそうだ。
これがソロモン名物「ぶっかけ飯」。