血染めのカツオのたたき
カツオを血だらけになってさばく。
JICAの事務所から道路を挟んだ向かい側で、ラグビー場の建設が行われている。そこには立派なインド菩提樹があったらしいが、クリスマスの直前に、切られてしまった。G君はそれに憤慨していた。二十七日の朝、朝の散歩の途中、英語新聞「ソロモン・スター」を買った。新聞を開くと、その木が切られたニュースが一面を全部使って取り上げられていた。前日、パキスタンのブット元首相が暗殺されたのだが、何故かそのことは新聞に触れられていない。ここではニュースが伝わるのが、遅いのだろうか。
夕方、「仕事」を終えたG君と僕は、店じまいの最中の中央市場に寄ってみた。ひとりのおばさんの店で、見るからに新鮮なカツオを売っていた。四十ソロモンドル(六百円)で一匹買い求める。
アパートに戻り、タタキにするために解体を始めたのだが、カツオがあれほど「血の気の多い」魚であるとは想像していなかった。はらわたを出し、出刃で頭を取り、柳刃で三枚に下ろすだけで、台所は当たり一面血の海、殺人現場のようになってしまった。おまけカツオは背骨の他に、腰骨があるので、それを取り除かなければならない。奮闘二十分。血だらけになりながら、サクを四本作り、それをタタキにした。でも、冷凍しておいて食べるのは明日。さすがに毎日刺身を食べているので、その日はちょっと別のものを食べたくなった。夕食はスパゲティ。G君はせっせと血染めの台所の掃除をしている。僕は食事を作るのが趣味、G君は後片付けが趣味。良いコンビだ。
今日は、恒例の昼寝をしなかった?いや、実は、エッセーに飽きたとき、JICAの会議室のソファで眠っていたのだ。オフィスは冷房が効いている。しかし、僕には合わないようだ。冷房のある場所にいると、いつも体調が悪くなってしまう。夕方からどうも喉が痛い。
十二月二十八日。早朝、再び中央郵便局まで、娘のミドリ宛の絵葉書を出しにいく。約一時間の散歩。この時間だと、気温はまだ三十度以下。涼しくて気持ちが良い。そして、例によって、すれ違うほぼ全員と挨拶をする。G君は今日も休みのはずだが、朝から事務所へ出て行った。僕はアパートに残り、旅行記の続きを書いている。
仕事終えたG君と一緒に、また沈船のある海岸へでかけ、スノーケルをつけて潜る。原色の魚たちと、戯れるのは楽しい。次回は、是非水中で写せるカメラを持ってきて、この風景を写真に撮りたい。僕はそう思いながら、ソロモン諸島に、また戻って来ようと思いだしている自分に気がついていた。最初にガダルカナル島に着いたときは、これは一世一代の旅行で、もう来ることはないと思っていたのに。
新しい発見があった。海底だと思っていたのが実は、広川丸の婉曲した船底だった。よく見ると穴が空いていて、そこから魚が出入りをしていた。沈没してからすでに五十五年が経ち、船はサンゴに覆われ始めていた。次回来た時は、今かろうじて海面から出ている煙突ともうひとつの突起物も、海中に没しているかも知れない。
昼過ぎに戻りホニアラに戻る。大衆食堂で、飯にいためた肉と野菜をかけた「ぶっかけ」で昼食。午前中から、喉の右側が腫れたような感じで、物を飲み込むと痛い。風邪の兆候でなければよいと思う。一時半頃にG君のアパートに戻り、「例によって」昼寝をする。その日は特に、海のそこに引き込まれたような深い眠りだった。
カツオのたたき、最高!