違うって言うのに

 

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海岸は珊瑚で出来ていて、波が来るとカサカサと乾いた音がした。

 

 十二月二十六日。その日も朝九時頃からG君とテニスをすることになっていた。しかし、彼の仕事が手間取り、G君がフリーになったのは十時を過ぎていた。熱帯の島でこの時間からテニスをするのはさすがに辛い。サウナでエアロビクスをするようなものだ。

 僕とG君は彼の車で、島の東岸へ向かった。沖にサボ島という島が見えてくる。この島は火山島だ。右手に椰子の林と青い海、左手にガダルカナルの山々を見ながら走る。すれ違う車などほとんどない。途中で舗装が切れるが、島の道としては、まだよく整備されている方だ。時々、椰子の葉で屋根を葺いた小さな家の数件並ぶ集落を通り過ぎる。

 ホニアラから一時間半ほど東へ走ると、ヴィサレという村に着く。中心に、瀟洒な教会と、ほぼフルサイズの良く整備されたサッカーコートがある、きれいな村だ。この村の中学校には来年から、協力隊員が理科の教師として派遣されることになっている。それで、G君は学校関係者に会ってみることを思いついた。もちろん現在学校自体は夏休みだ。

 まずサッカーをしている少年たちを呼び止め、様子を訪ねる。彼らは道路より海側にあるのが小学校で、山側にあるのが中学校だと答えた。G君が中学校の建物の方に行っている間に、僕は少年たちと話しをした。こちらの英語はまず完璧に理解してくれるが、彼らの英語を理解するには三回くらい聞き返さなければならない。でも会話ができるのは楽しい。

「学校には何人くらい生徒がいるの。」

「六百人。」

この人数には驚いた。

「でも、途中で『ドロップアウト』する子が多いので、卒業するのは三分の一くらいかな。」

と一番年長の子が言った。

「来年から、日本人の先生が来るの、知っている。」

「知っているよ。あんただろ。」

違うって言うのに。

 間もなく、G君が中年の男性と一緒に現れた。それが中学校の校長先生だった。先生は、学校や病院の施設を、G君に案内している。先生とG君に追いつき、僕も一緒に見学をさせてもらう。JICAの偉いさんのG君と一緒にいると、会う人が皆僕に尋ねる。

「あんたが来年から来る先生かい。」

違うって言うのに。一番遠い部落の子は、片道二時間以上歩いて通っていると校長先生は言った。

海辺へ出て驚いた。海岸を形成しているのは砂でもない、貝でもない、サンゴなのだ。波が来ると、サンゴのかけらはカラカラと乾いた音を立てた。

 校長先生の家の庭で、パイナップルをご馳走になる。校長先生の官舎と言うことで、少しは立派だが、基本的に椰子の葉で屋根を葺いた板張りの高床式の家には変わりがない。先生自らが包丁でパイナップルをさばいて、皿に乗せて出してくれる。美味しい。隣では、娘さんがプラスチックのタライにお湯を張り、一歳くらいの女の子を行水させていた。別れ際、家族の皆さんに手を振ると、その小さな女の子もタライの中で手を振った。

 

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校長先生のお宅でパイナップルをご馳走になる。

 

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