沈船めぐり(二)

 

solomon161

波と戯れる子供たち。

 

 G君と僕はスノーケルとフィンをつけて、海の中に入った。

そこは正に別世界だった。色とりどりの魚たちが驚くほどの密度で、泳ぎ回っていた。沈船がちょうど良い具合に魚の棲家になっているようだ。黄色と黒の縞模様の魚。グリーンと赤という色のものもいた。何百匹、何千匹というカラフルな魚が、船の残骸の鉄骨の間を泳ぎ回っている。この深さなら、スキューバの用意は必要ない。スノーケルで十分だ。

この風景を残しておきたいと思う。水中で使用できるカメラを持ってこなかったのが残念でならない。とにかく、今自分にできることは、この美しい光景を、自分の心の中に写しこんでおくことだけだ。

少し沖に出てみる。水の色が、緑色から青みを増す。そこにも、水族館でもかくありきという密度で、魚たちが群がっていた。

 地元の青年たちが、海上から五メートルほど突き出ている煙突によじ登っていた。そして、そこから飛び込んでいく。僕が傍で見ていると、

「おまえもやれよ。」

とひとりが言う。僕が、

「いやだよ。」

と言うと、

「臆病者。プシー・キャット。」

と言われた。何とでも言わせておけ。

 正午過ぎに、ダイビングを終え、車でホニアラに戻る。G君の車の中では、地元の放送局のラジオがかかっている。その時は、ピジン語の局ではなく、英語の局だった。クリスマスと言うことで、ずっとクリスマスソングが流れている。英国に住んでいる僕に取っては、どれも耳慣れたメロディーなのだが、アレンジが全然違う。南洋風。「もろびとこぞりて」、「神の御子は今宵来ぬ」なんて曲が、ギターやドラムのアレンジで流れている。それが、車の車窓から見える、青い空、埃だらけの道、椰子の並木に実にぴったりと合うのだ。

ジャズ・ピアニストのオスカー・ピーターソンが亡くなったというニュースが入った。そのニュースの後には、彼の曲がかかった。それと、突然、ヨーロッパのサッカーの結果が流される。「レアル・マドリッド」が「バルセロナ」に勝ったなんてことが、この島の人たちに、それほど重要だとも思えないのだが。

 車に乗っていると時々路線バスとすれ違う。そのバスはかつて、日本で使用されていた物の中古だ。(ソロモン諸島は日本と同じ左側通行なのだ。)ソロモン諸島に輸入したとき、塗り替えるか、せめて前の持ち主の名前を消せばよいと思うのだが。経費を惜しんだのか、おおざっぱなのか、「そのまんま東」。先ほどすれ違った路線バスには「上越自動車教習所、たかだ」と書かれていた。ホテルの前に停まっていたバスは「くじら幼稚園」の通園バス。「幼児に注意」の黄色いマークまでそのままついていた。

 

solomon162

あちこちで火炎樹が赤い花を咲かせている。

 

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