ショッピング・イン・マデイラ

 

 先日フンシャルの街に来たときは、日曜日でもあり、店は全て閉まっており、道にも人通りがなかった。今日は金曜日の午後、店は開き、街は人が出ている。ポヨ子さんは、自分とお姉ちゃんのために、「お土産」を買いたいという。妻とスミレは、カデトラル広場の横にある若者ファッションの店「ザラ」に入っていった。私は店の前にあるベンチに腰掛け、目を閉じて、顔に降り注ぐ、十月の英国では考えられない太陽の光を楽しんでいた。十五分ほどして、店の中のへ様子を見に行く。スミレはまだ洋服を選んでいた。

「ロンドンより私にピッタリの小さいサイズがあるの。値段も半分くらいなのよ。」

彼女は言った。私は再び、店の前のベンチに座る。今度は目を開いて、前を通り過ぎる人たち、特に若い女性を観察しはじめた。確かに皆小柄である。背丈ということなら、英国にも背の低い人がいる。しかし、マデイラの女性は骨格が華奢(きゃしゃ)であると思う。そして、少し浅黒い肌。総合的に、可愛い娘が多い。道行く女性を見ているのが楽しい。

 妻と娘が紙袋を提げて店から出てきた。袋の中には、ジャケットと、二枚のセーターが入っていた。娘は、ここでは服が安いと繰り返した。大陸から何百キロも離れた島の方が安いというのも変な話であるが、おそらく定価はその場所の物価水準に合わせて決められているのであろう。と言うことは、物価のバカ高い英国で、私たちは高いものを買わされ、企業はその分、利益を上げているということになる。

ポヨ子はもう二、三軒店を回りたいし、アイスクリームも食べたいと言う。まだまだ時間は早いし、デビットカードで払われた代金が、私の銀行口座から数日後に落ちることを除けば、何の問題はない。しかし、娘の買い物にお付き合いする根気は私にはない。一時間後に会うことにして妻と娘とは別れた。その一時間の間に、数枚のスケッチをした。スケッチをすると、細かい観察をするので、風景が頭の中に刻み込まれて、その意味でも良いものである。

 結局、ポヨ子はその日四枚の服を買い、妻もセーターを一枚買った。私たちは一度、ホテルに戻り、その日は街で夕食を食べるために、七時過ぎにフンシャルに戻った。

 さて、駐車場に車を停めて、レストランを探す段になって、色々と難題が出てきた。首都フンシャルにはレストランはそれこそ何十、何百とあるのだが、なかなかポヨ子さん好みの店が見つからないのである。スミレは雰囲気だけではなく、結構値段にも厳しい。波止場につないである船上のレストランなどという、ポッシュで洒落た店もあるのだが、店の前に貼り出してある値段表を見るとえらく高い。比較の対象が、前日まで食べていたローカルなレストラン。三人でたらふく食べて、ワインを一本頼んで三十五ユーロ(五千円)以下。そんな値段を期待するのは無理にしても。三人とも疲れて腹が減って段々と不機嫌になってきた。すったもんだの末、夜の九時過ぎに(これがポルトガルでは正しい夕食の時間なのであるが)一軒のレストランに入った。その日も妻は魚を頼んだが、私は何故かステーキを注文した。久々の肉は美味しく感じた。

 

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