お疲れハイキング

 十月二十八日、マデイラ滞在も今日が最終日の八日目となった。考えてみれば、この一週間で、島を端から端までくまなく回ったものである。リコの滝だけは見ていないが。その日も山の上には雲と虹がかかり、山の上での天気と視界は期待できそうにない。これまで、日本や英国で見た虹は、数分か、長くて十分くらいのものであったが、マデイラの虹は息が長い。一時間後に窓から外を見ると、同じところにまだ虹が見えた。

その日は、「あの感激をもう一度」ということで、これまで訪れて一番良かったところにもう一度行ってみるということにした。妻の意見が全面的に採用され、島の東の端である、ポンタ・デ・サオ・ロウレンソをもう一度訪ねることになった。午前十一時、車で高速道路を東へ向かう。マチコの町を過ぎ、車は岬の一角に入った。途中、プラインハという場所に寄る。ここは、断崖絶壁と石浜に囲まれたマデイラの唯一の砂浜であるとのこと。幅が百メートルくらいの可愛い浜で、泳いでいる人が数人いた。私は、スミレのこちらでの名前である「MONIKA」を、一字につき三メートル角で砂浜に書いた。

前回のように岬の根元で車を停め、遊歩道を岬の先端へと向かう。しかし、今回も私たちは先端までは行けなかった。時間がなかったわけではない。一時間ほど歩いた後、私がバテてしまったからである。昨年はフルマラソン三度完走した私なのだが、今年二月に心臓に問題を起こし、手術を受けてからは、心臓の能力が落ちていた。それでも、平らなところならば、普通に歩けるのであるが、アップダウンの激しい岬の道は、やはり無理だったようである、途中で、心臓がドキドキして、気分が悪くなり、二十分ほど岩の上で横になっていた。顔を横に向けると岩の上を小さなトカゲがチョロチョロと歩いている。間近に見ると、トカゲもなかなか可愛いものである。

少し回復したので、妻とスミレに

「ゆっくり行ってね。」

と頼みながら、来た道を戻る。上り坂になると、スミレに引っ張ってもらったり、押してもらったりしながら、何とか駐車場に到着。これまでハイキングに行って、歩けなくなった子供たちをおんぶして戻ったことはあったが、立場は完全に逆転しつつある。

岬からホテルに戻る途中、ショッピングモールに寄った。ポヨ子さんはまたまたファッションの店に入っていく。

「まだ服買うの。」

と呆れて尋ねると、

「今日は、自分の服じゃなくて、お姉ちゃんのお土産にする服を買うんだもん。」

とのこと。スミレはお姉ちゃん思いである。妻は、マデイラン・ワインを二本と、煙草「マルボロ」を買っている。ワインの一本と煙草は、英国にいる上の息子と娘用だと言う。二人とももう大人なので、酒も煙草も合法的なのであるが、旅行の土産に酒と煙草を自分の子供に買うと言うのは、何となく素直に納得できないものがあった。

 

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