島の天気

 

 フンシャルから戻って、三人で食事にでかけた。ホテルは「ベッド・アンド・ブレックファスト」つまり、朝食だけなので、昼と夜はどこかで食べなくてはならない。少し薄暗くなった海岸に出る。岩のトンネルを抜け、遊歩道に入り、道沿いの結構高級そうなレストランに入った。ウェイターのお勧めに従い、シーフードのグリル盛り合わせを頼んだが、あまりの量に、食べる前から圧倒されてしまった。二人前を三人で食べようとしたのであるが、三分の一も食べないうちに降参。残りは持ち帰りにしてもらった。(結局食べなかったが。)「ヒューマン・ダストビン」(人間ゴミ箱)と学生寮の住人から呼ばれている「我が家の残飯整理係」の息子を連れて来なかったことが悔やまれる。ともかく、明日から、レストランで注文する量には気をつけなければいけない。レストランから外へ出ると、かなり激しい雨になっていた。

 翌朝、十月二十三日月曜日、朝起きて、薄暗い中を階下のプールへ行って泳ぐ。まだ小雨が降っている。蒸し暑く、少し動くと汗が出る。まるで日本の梅雨のよう。

朝食の後、ホテルのフロントで車を借りる手続きをする。十一時頃に車が届いた。灰色の「ルノー・クリオ」、軽乗用車のように小さい車だが、道が狭く、カーブの多い島の道路では、この方が実用的である。でも、三人を乗せて坂をちゃんと登るかな。

 十一時半に、早速借りたばかりの車を運転して、ドライブに出かける。高速道路は、海岸沿いから坂を上がった、標高二百から三百メートルの辺りを走っている。海に近いところは、家もあるし、断崖絶壁になっている場所が多いので、山の上の方に新しい道路をつけたのだと思う。高速道路に入り、東に向かう。霧と雨で前方が全く見えない。

 島の天気を観察して気がついたこと、それは、風上は天気がいつも悪く、風下は天気が良いということ。マデイラには千五百メートルを越える高い山が聳えている。海から吹きつけた湿った風は、山の急斜面を駆け上がり、その間に断熱膨張で湿気を保持できなくなり、湿気は雨となる。湿気を落とした空気は山を越えて反対側の斜面を駆け下る。そちら側はカラッとしていて、天気も良いのである。つまり、冬の間、西高東低の気圧配置から季節風が吹きつけて、日本海側に雪を降らし、太平洋側は乾燥するのと同じ原理。私たちの滞在するフンシャルは、島の南側にある。そして、今風は南から強い風が吹いている。従って、南側は冬の日本海側と同じ条件となり、湿気が多く、雨がちなのである。

 高速道路を降りて、更に山の方へと向かう。曲がりくねった坂道を走る。途中、籐細工で有名なカマチャという町を通過するが、激しい雨風でとても車を降りる気にはならない。更に走るとサント・デ・セラという村に着いた。雨が上がったので外に出てみる。そこにはきれいな公園があるらしい。実際によく整備されたきれいな公園であった。雨上がり空気に、緑がしっくりと美しい。深い緑の中に、色とりどりの熱帯の花が彩りを添えている。公園の奥に谷を見下ろす小さな展望台があった。そこから見ると谷に虹が見えた。自分より下の方に虹を見るのは、生まれて初めての経験であった。

 

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