段々畑

 

 サント・デ・セラから、更に東に向かって山道を走る。道はいつしか下り坂になり、前方に視界が開けてきた。マデイラの典型的な風景、それはオレンジ色の屋根と白い壁の家が斜面に張り付くように立っているところ、それと急な斜面に刻まれた段々畑である。これと似た風景を私は、四国の土讃線(高松から高知へ通じる鉄道)沿線で見たことがある。まさに「耕して天に至る」という言葉通り、段々畑が斜面に刻まれ、見上げるような高い場所に家が立っていた。

 マデイラの段々畑には、かつてサトウキビが植えられていた。十五世紀に植民を始めたポルトガル人は、この島の気候がサトウキビの栽培に向いていることを知り、島中にサトウキビを植えたのである。平地のない島なので、斜面に石垣を築き、段々畑をこしらえていくことにより、耕地が広げられた。現在は島の南側では主にバナナが、北側ではブドウが栽培されている。従って、島の特産品はバナナとワインということになる。マデイラン・ワインについてはまだ後で触れることにする。

 ともかく、ここはかつて砂糖の島だった。急斜面を刈り取ったサトウキビをかついで上り下りするのは、大変な重労働であったであろう。アフリカから奴隷として連れて来られた人たちが、その作業にあたっていたということである。今でも、あちこちに、野生化したサトウキビが繁っている。甘いものかと、一本を折って、幹をかじってみたが、全然甘さは感じなかった。突然、生えている木をかじりだし、不味そうな顔をして、またペッペッとまた吐き出している父親を、ポヨ子が呆れ顔で見ている。彼女には、お父さんは気が狂ったのではないことを、一応説明しておく必要がある。

 マチコの町に入る。オレンジ色の屋根と白い壁が、緑に映えて可愛い感じのする町である。ちょうど学校が終わったらしく、スミレと同じくらいか、もう少し若い、中学生くらいの子供たちが道に溢れていた。この島に生まれた子供たちは、この後、どんな暮らしをしていくのだろうかと、考えてしまう。

 マチコから更に東へ向かい、島の東の端である、ポンタ・デ・サオ・ロウレンソに向かう。妻は、旅行ガイドブックを見て、その辺りがとても良いところだと言っている。果たして、なかなかの場所であった。道のどん詰まりの駐車場に車を置き、坂を上がってみる。

海に細長い半島が突き出ている。草は生えているが、木は生えていない。

岬の先端まで三キロあるという。先まで行ってみたいという気持ちはするが、しかし、痩せ尾根の上を行くような、おまけに上り下りの激しい道である。時刻は既に午後三時。今日のところは、全コース走破は無理のよう。

 しかし、途中まで行ってみることにした。ポヨ子は「歩きたくないよ」とブツブツ言いながら付いてきた。十五分ほど歩くと、高さ百五十メートルはある崖の上に着いた。崖はほぼ垂直で、下は海である。海には柱のように岩が立っている。その岩が赤いのだ。溶岩。マデイラが火山島であったことを思い出させる赤い色であった。

 

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