マデイラはいかにして発見されたか

 

「マデイラ」は、一番近い陸地であるアフリカ大陸のモロッコから離れること五百キロ余、大西洋に浮かぶポルトガル領の島である。不勉強なことに、私は今年の九月まで、つまり四十九歳と半年になるまで、この島の存在を知らなかった。マデイラから更に数百キロ南にある、スペイン領の「カナリア諸島」はさすがに知っていて、過去に何度か行ってみようかと考えてこともあったのだが。それより近いマデイラは、何故かこれまでの人生で、私の前に姿や名前を現さなかったのである。

この島は十五世紀にポルトガル人によって発見され、米大陸を発見したクリストファー・コロンブスもこの島を訪れたと言う。我が家で、最初にこの島を「発見」したのは妻であった。「ザ・タイムズ」土曜版の旅行のページに、「マデイラで一週間ひとり二百ポンド(約四万円)」という広告が載っていた。その安さに妻はまず目を止めた。

ちょうど末娘の「ハーフターム・ホリデー(秋休み)」が目前にあり、私の有給休暇もまだ八日残っていた。ちなみに、英国では有給休暇は「権利」ではなく、それを残さず消化することが「義務」なのである。ここらで、ボチボチ休暇を「消化」しておかないと、後が苦しくなる、そんな状況であった。

常から我が家の「旅行企画係」である妻は、その広告を見て「マデイラ」が気に入ったようであった。結局、その広告を出した会社にはもう空席がなかったが、妻はインターネットで「マデイラ」、「休暇」を検索キーにあちこち探しまくり、それから数日後に、十月二十一日からの八日間、ひとり四百ポンド余の休暇を予約した。
 いつものことながら、「怠惰な旅行者」である私は、十月末のマデイラ行きが決まっても、特に事前調査もしない。

「行けばなんとかなるだろう。」

と言う考え。
「十月末に一週間休暇を取るからね。」
と職場の同僚に宣言する。百二十パーセントの確率で、次の質問が帰ってくる。
「どこかへ行くの。」
マデイラに行くと言うと、既にそこを訪れたことがあるというマーガレットが、
「火山島で、高い山がいっぱいあって、とても坂の多い場所よ。でも、エクスティンクトしている(死火山という意味か)から心配ないわ。暑くも寒くもなく、良い所よ。」
というコメントをくれた。私のマデイラに関する「予備知識」はそれだけ。

しかし、妻はマデイラ行きが決まって間もなく、図書館で旅行案内書を借りてきて、詳細に検討を始めていた。三人の子供たちのうち、上の二人は学校や都合があって旅行に参加できず、結局、妻と十五歳の末娘の三人で、十月二十一日にロンドンを発ち、マデイラに向かうことになった。インターネットでの予約ということが、私は何となく心配で、妻に、本当に大丈夫かと何度も尋ねたので、妻は少し嫌な顔をした。

 

<<次へ> <ホームページに戻る>