地獄八景亡者戯聞き比べ − サゲ、枝雀編
落語の終わりは「サゲ」あるいは「落ち」と呼ばれています。落語とはもともと「落とし話」、「落ちのある話」という意味です。初期の落語は短くて、本当に「落ち」しかなかったわけです。
A:「鳥が何か落としていったで。」
B:「ふーん」
*
A:「お坊さんが通ったはるで。」
B:「そう」
*
A:「お父さん、日通に勤めたはるんやて。」
B:「うん、そうや」
てな具合です。それがどんどん長くなって、現在の形になったそうです。
この長い長い話の「サゲ」、あるいは「落ち」、枝雀だけが他の四人と違っています。
四人の亡者が人呑鬼の腹の中で大暴れ、人呑鬼は閻魔に泣きつきます。
人呑鬼:「あの四人どもが、腹の中で暴れよる。何とかしておくんなはれ。」
閻魔は鬼の臍の穴から、四人の亡者に呼びかけます。
閻魔:「四人の者、出てこーい。」
亡者たち:「誰が出たるかーい。もっと暴れたるわーい。」
鬼は完全にグロッキーです。
亡者たち:「極楽にやってくれたら出たるぞー。」
閻魔:「(泣いている鬼に向かって)泣きなちゅうねん。大きな体して。もうしゃあない。言うたろ。極楽へやったるわーい。」
亡者たち:「極楽へやるって言うてるで。出まひょか、出まひょか。」
四人が出てきたところ、閻魔は四人を捕らえ、縄でぐるぐる巻きにしてしまいます。
亡者たち:「こら待て待て待て。何するねん。おい、閻魔。極楽へやると言うたんとちゃうのかい。」
閻魔:「アホなこと言うな。お前ら極楽へやれるかい。ありゃ、計略じゃ。」
亡者たち:「計略?、閻魔、嘘ついたな。閻魔が嘘つきよった。わー、閻魔が嘘つきよったぞー。」
四人は大きな声で叫びます。そうすると、地獄中の鬼がわーっと寄ってきて、嫌がっている閻魔を抑えてつけて、
「閻魔さんの舌をば、ズボーッと抜いてしまっちゃったとさ。地獄八景亡者戯、全巻の終わりでございます。」
と言うのが、枝雀のサゲです。言うまでもなく「嘘をつくと地獄で閻魔さんに舌を抜かれる」という言い伝えを逆手にとったわけで、笑えます。余りの馬鹿馬鹿しさに、敬意を表したくなります。