地獄八景亡者戯 − サゲ、標準編
枝雀以外の四人の演者のサゲは同じです。と言うより、吉朝、文珍、文我は、師匠米朝のサゲを踏襲しています。
腹の中で暴れる四人に手を焼いた人呑鬼は、便所へ行って四人を出してしまおうとします。それを知った四人は医者の助言で、鬼の肛門の近くで、人間の井桁を組んで、つまりピケを張り、どうしても出させません。きばりながら鬼が言います。
「くそったれ。」
でも、実は本人が糞垂れなのでした。四人がどうしても出ないので、鬼は閻魔の所へ行き、こう言います。
「もうこうなったら、あんたを呑まなしょうがない。」
「わしを呑んでなんとする。」
「大王(大黄)呑んで、下してしまうんや。」
ここで、「ドンドーン」とサゲの太鼓が入ります。
このサゲを理解するには、「大黄」という下剤の存在を知っている必要があります。しかし、現在、日本人でそんなことを知っている人は、確実に一パーセント以下だと思います。ウィキペディア百科事典によりますと、
「大黄:漢方薬として用いられるタデ科の多年草の一群。生薬としては根茎を使用し、消炎、止血、緩下作用があり、瀉下剤として便秘薬に配合される。」
とあります。
この、現代では馴染みのない大黄を、観客に紹介するために、前段階で登場させているのが、文我と文珍です。文我は、鯖に当たって死んだ男が、
「おかしいなあと思ったとき、下し薬、大黄でも飲んでおけばよかったんやが・・」
と、大黄という下剤があることに言及しています。
文珍の場合はもっと「印象的」な方法で紹介しています。枕で、彼が父親と年越しそばを食べているとき、父親がブリッジになっていた差し歯を飲み込んでしまいます。ところが、その翌朝、元旦に父親と雑煮を祝おうとすると、既に父親の口には差し歯が収まっているというエピソード。どうして、父親はそんなに早く、一度飲んでしまったものを、一周させて、取り出すことが出来たのでしょうか。
「大黄を飲んだんじゃい。そうしたら朝から『村祭り』(ピーヒャラ・ドンドン)じゃ。」
と父親は種明かしをします。この話の途中、お父さんが差し歯を飲み込んで、「ウウッ」と言った時、
「お父ちゃん、どないしたんや。いくならあっさりいってや。」
という不謹慎なギャグが、受けていました。
やっとこの長大な落語の最後に辿り着きました。「やったー」と「やれやれ」が混ざった気分です。ここまで、読んでいただいた方がおられましたら、その忍耐に心から感謝の意と、敬意を表させていただきます。