地獄八景亡者戯 − 鬼の腹の中
山伏の機転で「熱湯の釜」から逃れ、軽業師の技で「針の山」を突破し、歯抜師の計略で「串刺し」を免れた四人も亡者たち。こうくれば、当然、次は医者の山井養仙の出番となるわけです。何故この四人の職業の者が選ばれたのかの必然が明らかになります。
鬼の腹の中に落ち込んだ亡者たちは次の行動を考えます。のどちんこにぶら下がっていた軽業師も肋骨をつたって下りてきます。医者が言います。
「わしゃ、医者じゃ。腹の中に入ればわしに任せてもらおう。」
何故かメスを携行していた医者は鬼の胃を切り開いて外へ出ます。
「これが鬼の腹の中じゃい。人間も鬼もバッタもえろう変わらんわい。肺臓、腎臓、肝臓、脾臓、アフリカ象、インド象。」
どうも、頼りない医者ですが、ここは彼に任せるしかありません。鬼の腹の中には色々なものがあります。
☆ くしゃみ紐:これを引っ張るとくしゃみがでる。
☆ 疝気筋:テコみたいなもで、これを起こすと腹痛を起こす。
☆ 笑い幕:くすぐると笑う。
☆ 屁袋:蹴とばすと屁が出る。
鬼への仕返しに、これを一度にやってみようと言うことになります。プラス、鬼の喉笛を爪で引っ掻いて、鬼に空えずきをさせようと。
「いっぺんにやるよ。ひいふのみっつ。」
「これはどうじゃい。(ガリガリ)」
「ウエーウエー」
「これはどうじゃい。(グイッ)」
「ハックシュン」
「これはどうじゃい。(ヨイショ)」
「ア、痛タタタタ」
「これはどうじゃい。(コチョコチョ)」
「ハッハッハッ」
「これはどうじゃい。(ボンッ)」
「ブー」
「ウエーウエー、ハックシュン、ア痛タタタタ、ハッハッハッ、ブー。ウエーウエー、ハックシュン、ア痛タタタタ、ハッハッハッ、ブー。」
鬼の苦しむ様子、どの演者も大熱演で、この部分は拍手喝采です。まさに、ここが後半の最大の山場です。
枝雀では、ここで鬼は閻魔大王に泣きつきます。他の四人では、鬼は、便所へ行って四人の亡者を出してしまおうとします。ともかく、ここからいよいよサゲに突入です。