地獄八景亡者戯聞き比べ − 芸は身を助く(二)

 

 文我の童謡義太夫に続いて、大いに受けているのが、吉朝の「形態模写」です。著名な「落語家」が舞台に出てくる様を模しているのですが、どんな「芸」だったのかCDでは全く分かりません。CDでは出囃子しか聞こえませんからね。先ずは人間国宝、桂米朝。拍手大喝采です。

「他の亡者連中もリクエストしてよいぞ。」

と言うことで観客よりのリクエストが募られます。「枝雀!」という声で次は桂枝雀が、その次は「春団治!」という声で桂春団治が演じられます。声だけ聞いていると、同じ人が言っているようなので、ひょっとしたら「さくら」かも。ともかく、観客席は大いに湧いています。吉朝の横山やすしの真似「おこるで、正味の話が!」も声だけですが、すごく似ていました。吉朝って、物真似の才能もあったのですね。ともかく、何が残念だと言って、これがDVDでなくてCDで、実際に見られないことほど、残念なことはありません。

 

 枝雀と文珍には、落語をする人が出てきます。演目は何と「地獄八景亡者戯」。

「ええ、しばらくお付き合いを願います。ここにございました、われわれ同様という、いたって呑気な男でございます。よそから鯖をもらいまして、これおば手料理に・・・」

と話し始めます。閻魔が慌てます。

「こらこら、そんなんお前ずっとやる気か。ずぅっとやったら、ここまできたらまた元に戻って、いつまでたっても終わらへんやないか。そんなもんやめぇ。」

閻魔は少し考えた挙句、落語家に、

「わしが長年召し使いおる鬼どもは、ついぞ笑うた顔というの見たことがない。一度あの鬼を笑わせてみい。」

と要求します。落語家が、鬼の耳元に口を近づけ、何かを囁きます。すると、どうでしょう、鬼が笑い出したではありませんか。

閻魔:「何がそのように面白い。」

鬼:「こいつ、来年のことばかっり言いよりまんのやがな。」

 

 一体何のことやらわからない、不思議な芸が、枝雀に登場する「物真似」です。

「ご静粛にお願いをいたします。微妙なる芸でございます。まず犬からでございます。『ワンワン』。続きましてはネコでございます。『ミャーオ、ミャーオ』。ご退屈があってはいけませんので、あとはメドレーでお送りをいたします。馬、『ヒヒヒーン』。牛『モー』。山羊『メー』。虎『ウォーッ』。ライオン『ウォーッ』。チータ『ウォーッ』。キリン『キリンキリンキリン』。さていよいよ最後は千番に一番のかねあい、西洋の鶏を鳴いてごらんにいれます。『コッカ、ドゥードゥルドゥー。コッカ、ドゥードゥルドゥー。』」

さすがに閻魔大王も呆れ顔。

「何やこれ、こんなん芸か。」

しかし、アホなことも、堂々とやると芸に見えるところが不思議です。

 

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