地獄八景亡者戯聞き比べ − 芸は身を助く(一)
話を落語に戻しましょう。閻魔の「一芸あるものは極楽へ通してつかわす」という言葉を「イチベイなるもの」と聞き間違えた市兵衛という名の男が名乗り出て、周りの人間のヒンシュクを浴び、「市兵衛なんて地獄行きの名前や」と言われてしまいます。
極楽に通してもらおうと、次々と挑戦者が現れます。五人の演者に共通して登場するのが、「手品」をやる男と、「曲屁」をやる男です。
手品の男は、掌から垢のこよりをひねり出し、それを丸めると今度は「千手観音」つまり虱(シラミ)を取り出します。それを指の先で潰して「血は流れて散乱するところ、春は三月落花のかたち」を作って見せ、最後は「一粒万倍千匹虱じゃ」と称して、辺り一面を虱だらけにしてしまいます。いやはや汚い芸もあったものです。この男、頭からDDTをかけられ、消毒の為に熱湯の釜に放り込まれることになってしまいます。
次は「きょくべい」。「曲芸」ではありません。「曲屁」です。屁のこきわけをするという芸。最初は「一尺より一寸短い屁」、「クスン(九寸)」。次は「松田聖子」、「ブリー」。「はしご屁」、「ブーーー、ブーーー、ブー、ブー、ブー、ブー、ブー、ポンポンポンポン・・・」。これ、つまり、両側に長い棒があって、五段の横木があって、両側に楔(くさび)を打ち込んでいったところなのです。最後は千番に一番のかねあい、「薙刀(なぎなた)屁」、「ポン、ブーーーーーー、プルプルプル」。下の方(尻手)から順番にこきだし、「プルプル」は千段巻き現しているそうです。
「それでは肝心の身がないではないか。」
「身はこれから気張り出す・・・」(ええかげんにせえ)
汚い芸が続き、さすがの閻魔も呆れ顔です。
この後、米朝を除く四人の演者には、それぞれユニークな挑戦者が出場します。つまり、彼ら自身の得意芸を、この際ここで披露してしまおうという趣向なのです。
先ずは文我。浄瑠璃を語るという亡者が現れます。演題は何と「どんぐりコロコロ」。そして文我は何と、本当に「どんぐりコロコロ」を一段、義太夫で語ってしまうのです。口上があり、ベンベンという太棹三味線によるイントロの後、「どんぐりーーーー、いーーーーー、いーーーーーー」と、「い」が延々と続きます。余りのバカバカしさと、熱演振りに、場内は大爆笑でした。文我は「ほうじ茶」という演目の中でも、「犬のおまわりさん」を浄瑠璃で語っています。まさに、「真剣で、アホらしくて、面白い」という芸。
「おまえ、そんなアホなことをよう真面目な顔してやったな。」
と言う閻魔のコメントに対して、演者は、
「自分で自分をほめたい。」
と答えます。
「その言葉を大事にして、結婚相手だけには気ィつけや。」
そう言えば有森裕子さん、今もあの米国人と結婚生活を続けておられるのでしょうか。