地獄八景亡者戯聞き比べ − 閻魔の庁、正門
それぞれ懐に合わせた念仏を買い求めた亡者たちは、ゾロゾロと閻魔の庁の正門へと集まってきます。話によると、今日は久しぶりにお裁きがあるとのこと。お役所仕事、ためておいてからやるので、お裁きは毎日あるわけではないのです。しかも、門は何時開くのか分かりません。待たされ続けている亡者の衆、そろそろ辛抱が限界にきています。
「おーい、いつになったら門を開けるんや。」
「切符だけなと先売れ。」
「整理券配れ。」
「人質を解放しろ。」(吉朝のこのギャグ、何のパロディーなのでしょうね。)
ひとり酔ったおじさんが出てきます。
「バカにしやがって。いつまで待たせんねん。どけっ、俺が掛け合うたる。こらっ、閻魔。いつまで待たすねん。開けたらどやねん。こらっ、閻魔、閻公、閻てき、閻州・・・遠州森町良い茶の出どこ、娘やりたやぁ、お茶摘みに。」
鬼がこれを聞いて怖がります。そのココロは「清水港は鬼より怖い」。広沢虎造の浪曲の一節ですが、余りにも古い時代のギャグなので、吉朝は「てなことを言うても、最近の若い者には分からんぞ」と、取り繕っています。
昔、金沢で学生をやっている頃、「三国ボートレース」のプログラムを夜に飲食店に配達するというアルバイトをやっていました。運転手のホンゴウさんというおじさんとふたりで組んでいましたが、このホンゴウさんが、小沢昭一と広沢虎造のファンで、ラジオの「小沢昭一の小沢昭一的こころ」を聞いた後は、いつもカセットで広沢の浪曲をかけていました。「石松代参」など、結構面白いと思いました。そして、そのとき初めて、このギャグの意味が分かったわけです。
話はそれますが、そのときプログラムを配っていた「飲食店」には、狭いカウンターの後ろに、若い女の子が七、八人もいる店もあれば、イヴニングドレスを着た、なかなか格好の良いお姉さんがいる店もありました。運転手のホンゴウさんに、
「あそこの店、結構きれいな人がいますね。」
と言うと、事情通のホンゴウさん、
「あれ、皆、男や。」
ようやく、閻魔の庁の正門が開きます。腕章を巻いた鬼の整理員たちが、整理にあたっています。
「押したらいかん。押したらいかん。男はこっち、女はこっち。男はこっち、女はこっち。何をウロウロしてんねん。何、元男?そんなんどっちども良え。」
「イジワル!」
これ吉朝のギャグなのですが、オカマのお兄さん、いやお姉さんの「イジワル」の発音が絶妙で、大いに笑いました。