地獄八景亡者戯聞き比べ − 鬼の船頭の料金表(三)
鬼の料金表も、パターンが分かってしまうと、それを逆手にとって、料金をごまかそうという輩が出てきます。
文珍の船に乗っていた人たち、
G:「ビビンビ、ビンビン。ワタシ、ブラジル人、『ロナウド』ノファンデース。W杯ニ優勝シタ嬉シサニ、踊ッテ、踊ッテ、踊リマクッテ死ニマシタ。『タンゴ』ヲ踊ッタノデ『タンゴ(三五)十五』デ千五百円デスネ。」
鬼:「ちょっと待て、タンゴちゅうたらアルゼンチンやないか。ブラジルはサンバやろ。『タンゴ十五』と『サンバ二十四』。ちょっとでも安うなるように嘘ついてるな。」
G:「バレマシタカ。」
鬼:「当たり前じゃい。」
そう言えば、この録音は二〇〇二年、日本と韓国を舞台にしたサッカーW杯の年でした。
H:「私ら、フグに当たってこっちへ来ました。」
鬼:「フグに当たったら苦しかったか。」
H:「苦しうて、苦しうて、たまらんかった。」
鬼:「そんな苦しみかたを何て言うねん。」
H:「一苦二苦の苦しみ。」
鬼:「嘘つけ。一区二区やて、地下鉄乗ってんのと違うぞ。四苦八苦やろ。数字やったらちょっとでも少ない方がええと思いやがって。嘘八百で、お前は八千円じゃ。」
私、個人的には、「苦しくて苦しくて堪らない」のは「七転八倒の苦しみ」と言うのではないかと思うのですが。こう答えておけば、「七八、五十六」で五百六十円で済んだものを。
また、鬼が勝手に値段を決めるので、鬼の横暴さに文句を言う人も出てきます。枝雀の船のひとりが、鬼に食って掛かります。
I:「そんなん、勝手に決めてええのんか。」
鬼:「私がルールブックです。」
このフレーズ、若い人にはもう分からないでしょうね。プロ野球の名審判、二出川延明が、三原脩監督に、
「ルールブックを見せてみろ。」
と詰め寄られて、その時に言った言葉です。
こうして乗り前が決まり、鬼が金を集め終わると、船はまた動き出します。今度は艪と変わります。艪べそにガチャリとはめ込んで、プッと霧水の一杯も吹いて、パーッ肌脱ぎになった鬼の船頭が、赤松を割ったような腕によりをかけて漕ぎ出します。
そのとき、小さなボートが横を抜いていきます。それを見た鬼の船頭、
「目ェ合わしたらいかん。目ェ合わしたらいかん。横山やすしじゃ。」
こうして、亡者たちは、三途の川を渡り終え、六道の辻に到着します。