地獄八景亡者戯聞き比べ − 死に方色々

 

 前置きはこのくらいにして、物語へ入っていくことにいたしましょう。 

「ここにございました我々同様といういたって気楽な男」が近所から鯖を貰います。包丁の持てるその男、もらった鯖を手料理に。二枚に下ろして骨付きの方を水屋(戸棚)へ直し、片身を肴に一杯飲んで寝てしまいます。ふと気が付くと、自分が空々寂々とした暗いところへ居るのに気が付きます。周りの人たちは皆、額に寸帽子という三角の布を当て、首からが頭蛇袋(ずだぶくろ)、手には麻幹の杖(おがらのつえ)をついて、糸より細い声を上げて(どんな声でしょうね)とぼとぼと歩いています。

 自分の前を歩いている見覚えがある人、良く見ると伊勢屋のご隠居でした。その鯖の好きな男は、ご隠居の葬式を手伝いに行き、その数日後に自分も死んでしまったのでした。懐かしい顔を見て喜んだその男、ご隠居に挨拶をします。

男:「ご機嫌さんで。」

隠居:「こんな所で会うて、あんまり機嫌良うないわいな。」

男「お変わりもなく。」

隠居:「変わり果ててるやないか。」

冥土というところは、挨拶のしにくいところなのですね。

 このご隠居は何が原因で亡くなったのか。米朝、吉朝、文我、文珍はそれを語っていません。しかし、枝雀さんだけはその秘密を知っていたのです。実はこの隠居、医者の薬に当たって死んだのでした。

 風邪をひいたこの隠居、近所の掛かりつけの医者を訪れるが満員。それで、近所の藪医者と評判の医者に行きます。これを、魔が刺したと言うのでしょうね。隠居は診察の後、白い包みと赤い包みを貰います。どうせ藪医者の薬、効きはすまいと思いながらも、隠居は赤い頓服薬を飲みます。そうすると、あっと言う間に冥土へ来てしまった次第。隠居は自分のことを、自嘲気味に「近眼のウグイス」だと言います。そのココロは「藪に当たって死んだ」。うまい!隠居に座布団を一枚。

 

 ふたりとぼとぼ歩いていると、枝雀の言うところ、そんな「一般的な傾向を全く無視した」陽気で賑やか一団がやって来ます。大金持ちの若旦那に率いられたこの一団、幇間、芸者、舞妓、お茶屋の女将さん、仲居さんの一団です。彼らはこの世で「したいことはし尽くした、行きたいところへは行き尽した、食べたい物は食べ尽くした」人たち、この世ではもうすることがないので、「冥土観光ツアー」を企画した一団でした。どうして死のうかということになり、「これまで、毒に当たるのが怖くてフグというものを食べられなかった。どうせ死ぬなら美味しいものを食べて死のう」という結論になります。それで、「フグにフグを買うてきて、フグに料理して、フグに食べて、フグにこっちに来た」そうです。これ「フグ」と「直ぐ」の洒落。どの演者も、余りの馬鹿馬鹿しい洒落に、少し照れながらやっておられます。

しかし、人間、死に方にも色々あるものですね。

 

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