地獄八景亡者戯聞き比べ − はじめに

 

 この私、英国はロンドンに住みながら、上方落語のファン。朝夕車で通勤しているのですが、車の中で、いつも落語のCDを聞いています。上方落語のネタで一番好きなものは何?と尋ねられたら、躊躇なく「地獄八景亡者戯」(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)と答えるでしょうね。大袈裟な言い方ですが、この噺(はなし)の中には、上方落語、ひいては上方の笑いのエッセンスが凝縮されていると言っても過言でない、と思います。

 では、その「上方の笑い」エッセンスとは何ぞや。桂吉朝が、「地獄八景」の枕の中で語っています。

「この噺、あんまり長いんで、聞くほうも、やるほうもしんどいですから、くだらない所は省いて、もっと短くしたらどうかという意見もあったんですが、そうすると全部省かないけません。」

まさに、「最初から最後までくだらない」これが良いのですよ。言い換えれば「最初から最後まで面白い」と言うことですからね。「起承転結?格調?そんなもん、どーでもええやんけ。とにかく面白かったら。」それが、上方の笑いの核だと思います。

 

 日本に一時帰国する度に、落語のCDを買ってきます。また、最近は「アマゾン・ドット・コム」などと言う便利なものが出来て、外国からでも日本の書籍やCDを注文できるようになりました。そうして集めた五人の演者による「地獄八景」のCDを、今回じっくりと聞き比べてみました。その五人の演者は以下の通り、録音の古い順です。

桂枝雀 1982106日、7日 大阪サンケイホール(二日に分けてやったの?!)

桂米朝 1990422日、京都府立文化芸術会館 

桂吉朝 1997127日、和歌山県民文化会館小ホール

桂文我 1998228日、すし久(三重県伊勢市)

桂文珍 200288日、なんばグランド花月

 

この落語、最初に聴いたのは高校生の時でした。米朝落語全集のレコードです。

「いやー、世の中にこんなおもろい話があったんかいな。」

と感激しました。米朝さんが、「骸骨のストリップと幽霊のラインダンス」と言うところを、「幽霊のストリップ」と言い間違えたのが、そのまま録音に入っていた、そんな細かいところまで覚えています。よっぽど何度も聴いたのでしょうね。京都の高校にいたのですが、文化祭で、落語研究会の主将、ホリイ君が大胆にもこのネタをやっておられたのも思い出します。

 ヨーロッパに赴任する前。高校の同級生のオオツカ君が、餞別として、テレビの「枝雀寄席」で演じられたものを、テープに録って送ってくれました。ドイツへ向かうルフトハンザ機の中、イヤフォンで聴いていたのですが、これがまさに抱腹絶倒の面白さ。三途の川の渡し舟に、「ケニアの山猟師」が出てくるところなど、思わず声を出して笑ってしまい、周りのお客さんから、白い目で見られたことを覚えています。 

 

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