アガサ・クリスティー
(英国、1890−1976)
今更クリスティーでもあるまいという気もする。既に読み尽くされ、語り尽くされた作家であることは間違いない。
アガサ・クリスティーは、私にとって英語の師である。十数年前、英国に移って来たとき、まず英語に慣れなくてはいけないと思い、クリスティーを読みまくった。慣れない英語で、ある程度のスピードを維持して読むのに、クリスティーの小説は最適だった。特にエルキュール・ポアロのシリーズには完全に「はまって」しまって、殆ど全部読んでしまった。一九二〇年代、三十年代の、いささか古風な英語ながら、私は多くの単語と、言い回しを、クリスティーの作品から学んだ。
あれから十年余。久しぶりにクリスティーを読み直してみた。改めて、その面白さを認識した。物語に現実性を持たせるために、その時々の社会現象を取り入れるミステリーが多い中で、そんなことは一切お構いなし、時代、世相を超越したクリスティーが新鮮である。
原題:The Murder on the Links
1923年