関空特急はるか
爬虫類を思い出させてしまう関空特急「はるか」、関西空港駅にて。
三月十五日、十時十五分に無事関空に到着。天気は薄曇。「フラットベッド」での八時間睡眠の効果は抜群で、気分は長旅の後とは思われないほど、すっきりしている。関西空港駅でJRパスのクーポンを引き換え、十四日間有効の「ジャパン・レイル・パス」を受け取る。基本的には、このパスがあれば、北は稚内からミナミは難波まで、いや冗談はさておき、南は指宿枕崎まで、特急列車乗り放題で日本全国を移動できる。残念ながら、この切符を買う事のできるのは、原則として外国人のみ。しかし、僕は日本国籍ながら「海外永住者」という扱いで、このパスの恩恵を受ける事ができる。六万円で二週間特急グリーン車乗り放題というもの悪くない。
ターミナルから外にでると、ひやりとした空気が僕を待っていた。気温は十度をわずかに上回る程度、水仙やクロッカスの花盛りであったロンドンよりむしろ寒いくらいだ。
引き換えたJRパスと、指定券を持って、京都行きの関空特急「はるか」に乗り込む。発車前に携帯でとりあえず無事到着を父と友人のイズミに伝える。どちらとも早く会いたい。「はるか」は頭でっかちのクリーム色の車体。爬虫類の頭を思い出させる。京都行きということで、発車の際には「琴の音」をアレンジした音楽が流れた。
原則的に、乗り物は空いているほうが乗客にとっては好ましい。しかし、それにも限度というものがある。余りにも空いていると、喜びを通り越して不安にかられてしまう。その日も、関空発、京都行きのグリーン車の乗客は一両に僕ひとりであった。確か、昨年も、その前の年も、やはり乗客は僕一人であったように思う。乗車率の低迷から、廃止に追い込まれるJRの列車が多い中、来年もこの列車、動いているのだろうかと不安が広がる。
「はるか」は在来線の列車橋としては日本最長の、関空連絡橋三千七百五十メートルを渡り、阪和線に入る。窓の中から見る桜の木のつぼみはまだまだ固いようである。天王寺で大阪環状線に乗り入れる。しばらく環状線を時計回り走り、旧「大阪ドーム」、現「京セラドーム」を右手に殺し、桜島駅の手前で単線の連絡線に入り、新大阪に到着する。
新大阪の駅で、隣のホームを見て驚いた。大阪発、札幌行き「トワイライト・エクスプレス」が隣のホームに停まっているのである。不思議だ。実を言うと、関西空港駅で既に僕はしっかりと最新号の時刻表を購入していた。それによると札幌行きの豪華寝台列車は、僕の乗った「はるか」よりもはるかに先行しているはずなのに。
京都駅の案内で、乗客に急病者が出たため、新大阪駅で臨時停車をしていたことがわかった。いずれにせよ、この「トワイライト・エクスプレス」も、一度乗ってみたい列車である。
京都、いつものように、「はるか」は日本で一番長いプラットホーム京都駅ゼロ番線に到着する。三月の終わりの土曜日。卒業式のシーズン。和服を着た若い娘さんが目を楽しませてくれる。前に並ぶ和服の娘さんの襟元を(思わず)覗き込みながら、僕はタクシーの順番を待った。
卒業式のシーズン。京都駅には和服姿の娘さんが多い。