「アルメンと消えたマリア」
Allmen und die
verschwundene María
2014年
<はじめに>
「アルメンとダリア」の続編である。アルメンはダリアの絵を取り戻したものの、それは正当に買い戻されたものではなく、仲介者のクロード・テンツが新しい持ち主のレブラーから盗んだものであった。(元々その絵は、依然に二重意味で盗難に遭っていたのであるが。)テンツは殺され、アルメンに協力したマリア・モレノは誘拐される。
<ストーリー>
グートバウアー夫人はダリアの絵は戻って来たものの、その絵に昔のような思い入れが出来ないでいた。それどころか、その絵を不吉なものとして感じるようになった。アルメンとカーロスは、マリアを誘拐した男たちからの電話を取る。彼らはイタリア語を話した。警察に通報しようというアルメンの提案に対して、カーロスは自らの手で事件の解決と、マリアの奪回を図ろうとする。ダリアの絵が戻ってから三日経った。チェリル・ターフェルトにアルメンから電話が入る。至急会いたいという。秘かにアルメンに好意を持つチェリルは、念入りに化粧をして、待ち合わせ場所のゴールデンバーに向かう。
マリアは医者からの帰り道、人気のない高級住宅街で白いBMWに乗った二人のイタリア人に呼び止められる。彼らはマリアを車で連れ去る。マリアは、工事現場の地下室で、手足を縛られ監禁される。カーロスは誘拐犯からの電話を受ける。電話の主は、明日の十時という時間と、緯度と経度をカルロスに伝える。それは、絵とマリアを交換する時間と場所であった。
ゴールデンバーでチェリル・ターフェルトと会ったアルメンは、テンツは絵を買い戻したのではなく盗だのであって、その結果テンツは殺され、マリアが誘拐されていることを告げる。そして、マリアの命を救うためには、ダリアの絵を必要であることをチェリルに話す。しかし、高額の金を払って再び手に入れた絵を、グートバウアー夫人が簡単に手放すわけがないこと、探偵の部下の危機などグートバウアー夫人にはどうでもよいことであること等、チェリルは否定的な見解に終始する。
戻ったアルメンに対して、カーロスは明日の場所と時間を告げる。アルメンは、グートバウアー夫人から一時的に絵を借りだし、それをまた後で取り戻すという計画を立てる。アルメンとカーロスはホテルに向かい、ふたりでホテルの二部屋を取る。
ダリアの絵を盗み出すことに一役買ったテレサ・カトレスは、テンツが殺された後、次は自分ではないかと恐れる余り、自分の部屋から一歩も外に出ないで、不安な毎日を送っていた。彼女は、絵を売った分け前で、グートバウアー夫人から独立し、海外での生活を送る計画を立てていた。しかし、予期せぬテンツの死で、その金も入って来なかった。テレサは、二通の封筒を受け取る。一つの封筒には三十万ユーロの現金が入っていた。テンツが殺される前に投函したのだった。もうひとつの封筒には、ダリアの絵を一部が入っていた。
アルメンとカーロスを、コンセルジュをだまして、四階のグートバウアー夫人のスイートに入る。執事とチェリルはふたりを追い返そうとするが、そこでカーロスは大声で祈り始める。その声を聞いてグートバウアー夫人が部屋から顔を出すが、ふたりを無視して再び部屋に戻る。チェリルはふたりを自分の部屋に招き入れる。チェリルは、カーロスに同情し、協力を誓う。アルメンは警察に届けることをほのめかして、グートバウアー夫人に絵を差し出させる計画を立てる。絵は元々盗品であり、それが明らかになることは、グートバウアー夫人も避けたいことに違いなかった。チェリルはグートバウアー夫人に絵を貸し出すように説得に向かう。再びアルメンとカーロスの前に現れたチェリルはふたりを絵の掛かっている部屋に案内する。絵はあった。しかし、真ん中が切り取られていた。欠けた部分は、グートバウアー夫人が自分で切り取り、テレサ・カトレスに送ったということであった。
アルメンは深夜にも関わらずテレサを訪れる。テレサは、ダリアの絵の一部を受け取ったが、それはゴミ籠に捨てたという。ゴミは既にメイドにより持ち去られていた。アルメンとカーロスはホテルのゴミ捨て場に向かい、そこにあるゴミ袋を順番に開けて、中を捜すが、ダリアの絵の一部は見つからない。
翌朝、その絵の入ったと思われるゴミ袋が、メイドの用具置き場にあることが分かるが、ふたりがそこに駆け付けたときには、既にゴミ袋は、収集車によって持ち去られていた後だった。ふたりはタクシーでゴミ収集車を追いかけ、焼却場まで辿り着くが、ふたりの目の前で、その収集車の中身が、焼却炉の中に入っていく。
マリアは前夜から高熱を出し、憔悴していた、ふたりのイタリア人は、マリアを車のトランクに入れ、走り出す。一方、アルメンとカーロスは、アーノルドのタクシーに乗り、GPSを頼りに待ち合わせの場所に向かう。そこは畑の真ん中であった。アルメンの携帯に犯人からの電話があり、新たな場所が指定される。そこは森の中であった。ふたりは車を降り、絵を持って森の中に向かう。
森の中で、アルメンとカーロスは二人のイタリア人と会う。ひとりはレブラーの愛人、ダリアの用心棒をやっていた男であった。マリアもいた。アルメンは、絵は破損しており、修理する金と一緒に渡すと言う。マリアは何かを叫ぶが、アルメンとカーロスにははっきりとは聞き取れない。男たちは、金だけを受け取り、絵はそのままにして、マリアを返さずに立ち去る。
ガッカリして家に戻ったアルメンとカーロスに誘拐犯から電話が架かる。彼らは絵を修理して戻すように要求してくる。アルメンは、絵の修理人であるセヴェリン・エールバウムを訪れ、絵の修理を依頼する。二ヶ月掛かるというエールバウムに、アルメンは三日で修理を終えるように命じる。もちろん、破格の修理代金を払うことによって。アルメンは、カーロスに、絵が三日で修理できることを告げる。しかし、マリアの衰弱ぶりを考えれば、カーロスはそれでも長すぎるという。カーロスの提案で、アルメンはレブラーの情婦のダリアに電話を入れる。しかし、彼女は電話に出ない。その時、誘拐犯から電話が架かる。アルメンは、三日後に絵を渡すことができる旨を伝える。
マリアは、ふたりのイタリア人のうち、若い方の男が用意した薬を飲んで、少し気分が良くなる。彼女は、何とか、自力で脱出する方法がないかを考える。グートバウアー夫人の容態が悪くなる。チェリルはグートバウアー夫人から離れる日が近づいて来たことを感じる。
アルメンは秘かに、場末のカフェで、レブラーの情婦であるイタリア人の女性ダリアと会う。ダリアは、レブラーに誘拐は関係なく、犯罪者であるイタリア人の元用心棒が、単独でやっていることだと述べる。ダリアは、助けになることは自分ではできないと言う。アルメンはその後エールバウムのアトリエを訪れ、絵の修理の進捗具合を見る。絵は、かなり修理ができていた。
アルメンとカーロスが犯人に訴えたせいか、マリアへの待遇は少し改善される。マリアは男たちに隙を見て、部屋に届いている電線を抜き取り、それで輪を作り、マットレスの下に隠す。
テレサ・カトレスは、ホテルを出て、パラグアイに発つ準備をする。彼女は、グートバウアー夫人に関する暴露本を執筆、出版するつもりでいた。
カーロスがマリアを誘拐したのが、レブラーではなく、筋金入りの犯罪者であることを知り不安を募らせる。彼は、犯人からの連絡を待つのでははく、何とかマリアを捜しだそうと考える。彼は、マリアと森の中で会ったとき、彼女が言った言葉が「ヤルマ」ではないかと考える。ヤルマは女性の名前である。カーロスは、コロンビアで、ヤルマと言う名前のジャーナリストの娘が誘拐され、虐待されたのちに殺された事件をインターネットの検索で知る。ヤルマは、工事現場の地下室に監禁され、殺されていた。カーロスは、マリアの捕らえられているのも、工事現場の地下室ではないかと推理する。アルメンとカーロスは、アーノルドのキャデラックで、市内や周辺の工事現場を周る。高級車に乗った身なりの良い紳士は、インスペクターと間違えられ、工事現場で彼らは優遇される。しかし、工事現場は余りにも多い。
絵の修理を依頼したエールバウムが、至急会いたいとアルメンに電話を架けてくる。アルメンはエールバウムのアトリエに駆け付ける。仮眠をしている間に、他の絵と一緒にダリアの絵が盗まれたという。
マリアは誘拐犯の一人を色仕掛けでゆだんさせ、隠していた電線を首に巻き付け気絶させる。マリアの作戦は成功したかのように思われたが、もう一人のイタリア人が駆けつけ、マリアの逃亡の企ては失敗する。イタリア人は慌ててマリアをワゴン車に乗せて工事現場を去る。
レブラーの愛人のダリアが、アルメンに電話を架けてきて、誘拐犯と思われるイタリア人を昨日、ある工事現場の近くで見たことを告げる。ダリアはその工事現場の場所をアルメンに教える。アルメンとカーロスはその場所に駆け付けるが、マリアの着ていたブラウスの切れ端が残っていたが、マリアはいない。アルメンは、覚悟を決め警察に向かい、警察の協力を求めることにする。警察官はエールバウムのアトリエに向かう。盗難に遭ったというのはエールバウムの狂言で、盗まれたと思われた絵は、別の場所で見つかる。しかし、ダリアの絵だけは見つからない。
その頃、マリアはワゴン車の中で、空き缶の蓋で縄を切って、脱出を図ろうとしていた・・・
<感想など>
この本を読もうかどうか、かなり迷った。この本は、全部で四冊出版されている「アルメン」シリーズの四冊目である。これまで三冊読んだが、正直、三冊目は面白くなかった。登場人物の行動パターンが、余りにも奇妙で、付いていけなかったのだ。しかし、三冊まで読んだ手前、面白くなくても、最後まで読んでおいた方がいいかなという気持ちはあった。しかも、三冊目の最後でマリアが消えるという事件が起こり、四冊目を読まないと、その結末が分からないという図式になっていた。それで、この本を読んだのだが、予想通り、面白くなかった。マルティン・ズーターという作家は、これまで、「外れ」がないというか、どの本もそれなりの満足を与えてくれたのに、この最新作のシリーズの出来は、ちょっと、いやかなりガッカリである。
理由は先にも書いたが、グートバウアー夫人、チェリル・タルフェルト、テレサ・カトレスなどの登場人物の行動パターンが分からない、何故彼等がそのような行動を取ったのか、理解に苦しむことが多いからである。いくら小説の登場人物と言っても、少しは共感というか、その人物への思い入れがないと、読んでいて辛いし、退屈である。
例えばグートバウアー夫人であるが、彼女がいくら九十何歳で、死の直前という設定でも、大金を叩いて買い戻した絵を切り刻み、その一部を自分の嫌っている人物に送り付け、修理中のその絵をまた盗みださせる・・・やることがハチャメチャなのである。チェリル・タルフェルト然り。彼女も、グートバウアー夫人を嫌い、女主人からの独立を望み、一度は反旗を翻し、アルメンに協力するような素振りを見せながら、結局はアルメンに嘘をつき、女主人を守る。「心の襞」、「迷い」では説明できないような行動である。
このシリーズ、ズーターという、これまで成功を収めた作家が書いたシリーズなので、まだ読む人がいるが(私も含めて)、無名の新人が書いたとしたら、話題になるだろうか。これまで、面白くなくても、読んで後悔した本はなかったが、正直、この本を読んだことを後悔した。
(2016年1月)