「アルメンとピンクのダイヤモンド」
Allmen und der rosa Diamant
2011年
<はじめに>
アルメンとカーロスのコンビの織りなす「捜査活動」の第二弾。「トンボの皿」事件をきっかけに設立された「アルメン・インターナショナル・インクワイヤリーズ」であるが、注文の少なさに加え、アルメンの浪費癖が重なって、その経営は火の車であった。アルメンはある英国人から、盗まれた「ピンクのダイヤモンド」を取り返すことを依頼され、その鍵を握るロシア人を追う。
<ストーリー>
英国、ロンドン。子供の頃、英国の寄宿舎制の学校に行っていたアルメンは、かつての同級生の法律事務所の一室で、モントゴメリーという男と会う。アルメンと執事のカーロスのふたりだけの会社「アルメン・インターナショナル・インクワイヤリーズ」は、そのホームページで「インターナショナル」なサービスを謳っていた。しかし、スイスの国外での仕事を依頼されたのは今回が初めてであった。
モントゴメリーは、アルメンに「ピンクのダイヤモンド」を取り戻すことを依頼する。アルメンの記憶によると、ダイヤの中でも特に高価なピンク色をしたものが、数か月前にスイスのオークションハウスで、記録的な値段で、匿名の人物により競り落とされていた。モントゴメリーによると、ダイヤはその新しい持ち主から盗まれたという。モントゴメリーは、ダイヤを盗んだ人物は分かっているが、その人物の居場所は分からないと伝える。アルメンはダイヤの価値の四千万ポンドの二十分の一、二百万ポンドで契約をする。そして、ダイヤを盗んだと思われる人物の名前、アルティオム・ソコロフと、その男が最後に目撃されたスイスの住所を貰って、スイスに戻る。
主人から話を聞いた、カーロスは、国際的な犯罪組織を相手にするのは危険すぎると乗り気でない。しかし、前金を受け取り、すでにそれを使い込んでいたアルメンは、後に引けない。
アルメンはまず、男が最後に目撃された場所に行く。そこは賃貸マンションであった。そこに住む男にソコロフに会いたいと伝えるが、ソコロフは一ヶ月ほど前に、そこを出ていた。
男は、数日前に、英国人の二人組と米国人の二人組が訪ねて来て、同じ質問をしたという。アルメンはその後、その賃貸マンションの管理会社、その建物の掃除人、近くのナイトクラブのホステスから、ソホロフの居場所の聞きだそうとする。しかし、ソホロフは誰にも行先を教えていなかった。そして、それらの既に場所に、二人組の英国人と二人組の米国人が既に現れ、ソホロフの行方を尋ねていた。ソホロフを追っている人間は、アルメンだけではなかったのだ。アルメンは依頼者のモントゴメリーに、アルメンの他にも誰かを雇っているのかと問いただす。モントゴメリーはそれを否定する。
アルメンは、ソコロフがかつて使っていたメールアカウントのプロバイダーを訪れる。そこは農家の一室であり、若い太った男が沢山のサーバーの前に座っていた。ソコロフのメールアカウントについて尋ねるアルメンに対して、その若い男は、数日前に英国人の二人組がやってきて、メールアカウントの入っているサーバーを持ち去ったと伝える。
アルメンの捜査が行き詰ったので、今度はカーロスが登場する。賃貸マンションに行ったカーロスは同じくグアテマラ人の掃除婦から、コロンビア人のマリア・モレノという女性が、ソコロフの部屋の掃除をしていた縁で、その後ソコロフに個人的に掃除婦として雇われたため、会社を去ったという。
「コロンビア人のマリア・モレノ」を捜すために、アルメンとカーロスは、コロンビア人の集まるバーに行く。そこで、経営者にマリア・モレノを知らないかと、アルメンは尋ねる。彼は、
「掃除婦を捜していてマリアを推薦されたものの、行方が分からないために捜している。」という口実を使う。経営者は、マリアを知らないが、他の客に尋ねてみることを約束する。
数日後、アルメンは行きつけのカフェ「ヴィアヌワール」にいた。そこで、彼は二人組の英国人と二人組のアメリカ人を発見する。そのとき、アルメンの携帯が鳴る。電話を取ると、それはマリア・モレノであった。彼は、マリアに詳しくはカーロスと話すように伝える。
カーロスはマリアと会う。彼はマリアの美貌に釘づけになる。カーロスはマリアから、ソコロフが借りており、マリアが住み込みで掃除婦をしていた屋敷の住所を聞きだす。
アルメンがその屋敷を尋ねると、若い男がいた。この家の管理会社の人間であるという。アルメンは、
「この屋敷が空き家になっているようなので、買うか借りるかしたい。」
と言う。若い男は、この家はソコロフという男が借りており、前金で一年分の家賃を貰っているので、他人には貸せないという。家の中には配達されたものの、梱包の解いていない家具があった。
マリアによると、彼女は
「一か月間からソコロフの屋敷で、住み込みで働いていたが、一週間ほどして、突然主人がいなくなった。」
とカーロスに話す。
「誘拐されたのかも。」
とカーロスが言うと、マリアは、ソコロフが旅行用の鞄を持って出て行ったことから、その可能性を否定する。出て行く前に、ソコロフが、旅行代理店と連絡を取っていたという。
アルメンとカーロスはソコロフの屋敷に忍び込む。そして、玄関に山のようになっている郵便物を調べる。宣伝やビラの中に、彼等は旅行代理店からの封筒を見つける。そこには、ドイツのロストックにある、海辺の高級ホテルの名前が記されていた。アルメンはそのホテル「ル・グラン・デゥ」に電話をして、ソコロフと話したい旨を受付に伝える。受付は、ソコロフは今部屋にはいないと答える。ソコロフはまだそのホテルに泊まっているのである。アルメンはそのホテルへと向かう。
アルメンはホテルにチェックインする。彼はホテルの滞在費としてモントゴメリーに追加の経費を請求する。翌日、彼が海岸で日光浴をしていると、隣でロシア語の会話が聞こえる。ソコロフであった。ソコロフは食事の際も、常にラップトップを持ち歩き、コンピューターで何かをしていた。アルメンはモントゴメリーに場所は伝えず、ソコロフを発見したことのみ連絡する。モントゴメリーは引き続きソコロフを見張るように伝える。アルメンは、ソコロフの部屋の番号を調べ、
「別の部屋に移りたいので、その部屋が空くことが分かり次第、連絡をくれるように。」
とフロントに頼む。もちろん、大枚のチップを添えて。
食堂でアルメンとソコロフの目が合い、ふたりは会釈を交わす。それがきっかけで、ふたりは話をするようになり、食事やバーを共にする。ソコロフは、
「最近金回りが良くなったが、金持ちとしてどう行動してよいか分からない。」
と言い、金持ちとしての振る舞い方をアルメンに尋ねようとする。アルメンは、ソコロフが最近、大金を得たことを知るが、彼が悪人とは思えない。
アルメンが、ソコロフと一緒に夕食を取る前にバーにいると、アメリカ人の各二人組が現れる。彼らはアルメンがカフェで見かけた男たちであった。アルメンはその男たちがソコロフを追っているのを知っていた。しかし、何故、彼等がスイスの自分の行きつけのカフェに現れたのか不思議に思う。自分も追われているのでは。ソコロフは自分が彼らに追われているのに気付いていないようであった。
ホテルに次に英国人の二人組も現れる。アルメンが先を越したと思っていたのも束の間で、他の追手もソコロフの居場所を捜し当てたのであった。フロントから、明日、ソコロフがチェエクアウトをするために、彼の部屋が空く旨の連絡がある。アルメンは何とかソコロフがホテルにいる間に、ダイヤの行方を捜し出さないといけないと考える。
彼はソコロフがサウナに入っている間に、バスローブから部屋のキーカードを抜き取り、ソコロフの部屋に侵入する。アルメンはふたりの英国人が、入れ替わりにサウナに入っていくのを見る。ソコロフの部屋で、アルメンはクレジットカードを使って金庫を開けるが、中に入っていたのは、ピンクのダイヤモンドではなく、ピンクのメモリースティックであった。アルメンはそれをポケットに入れる。
キーカードを返すためにアルメンがサウナに戻ると、大騒ぎになっていた。誰かが、サウナのプールで溺れ死んだという。それはソコロフであった。アルメンは混乱に紛れてキーカードをソコロフのポケットに返し、その代わりにソコロフのラップトップを持ち去る。アルメンがソコロフの死についてカーロスに伝えると、カーロスは直ぐに戻るように言う。アルメンは翌日スイスに戻ることにする。
アルメンがスイスに戻る日、彼が海岸を散歩していると、ひとりの男が彼を呼び止める。それはソコロフの死について調べている刑事であった。アルメンは、ソコロフが死んだ頃、サウナに入っていく英国人の二人組を見たことを刑事に伝える。刑事は英国人が事件の後すぐにホテルを出たこと、ソコロフの使っていたラップトップが行方不明になっていることを伝える。刑事は念のために、アルメンの部屋と荷物を調べるが、何も発見できない。
アルメンはスイスに戻る。彼は、ラップトップをバックギャモンの板をくり抜いた中に隠していた。アルメンはカーロスに、コンピューターの中身をチェックするように言う。彼は、ソコロフの部屋から持ち出したメモリースティックを引き出しにしまう。アルメンはモントゴメリーに電話を入れ、ソコロフの死について伝える。モントゴメリーはその後、音信不通となる。
カーロスは、ソコロフのコンピューターの中に、ピンクのダイヤモンドの手掛かりを探ろうとするが、何も見つからない。
アルメンの家を例の英国人の二人組が襲う。彼らはアルメンを縛り上げ、カーロスに銃を突きつけ、ソコロフから預かったものを出さなければカーロスを殺すと脅す。しかし、そのとき今度はアメリカ人の二人組が突入してきて、英国人を取り押さえる。米国人達は、
「自分たちはFBIで、スイスの警察と一緒に国際的な犯罪組織を追っている。」
と言う。米国人たちは、メモリースティックを持ち帰る。
アルメンがカフェに行くと新聞にピンクのダイヤモンドの話が出ていた。中国人の父親が娘の結婚式のために買い、サプライズのために隠していたのだという。アルメンは、誰がダイヤを持ち去り、誰が発見して持ち主に返したのか不思議に思う。
結局モントゴメリーからの報酬ももらえず、アルメンとカーロスは再び以前の生活に戻る。次の仕事はなかなか来ず、またアルメンの借金は増え始める。ある日、カーロスは新聞の経済欄に目を止める。そこには、カナダの会社の開発した、株取引のための画期的なソフトウェアが、盗まれたことを伝えていた。カーロスにはその容疑者、ラ・ルートの名前に見覚えがあった。ソコロフのメールを調べたとき、その名前の人物とソコロフが頻繁にメールを交換していたのだった。カーロスはそのメールを調べる。そして、真のピンクのダイヤが何であるかを知る。それはピンクのメモリースティックに入れられた、ソフトウェアだったのだ・・・
<感想など>
アルメンは毎回必ず豪華なホテルに滞在する。そこで、最高級の料理を食べ、最高級のワインを飲む。アルメンの成金主義は、少なくとも相手の警戒を解き、情報を仕入れるには役に立っている。昔、筒井康隆の本に「富豪刑事」というのがあった。大金持ちの男が刑事になり、「足で事件を解決するのは古い、事件は金で解決するもの」と、湯水のように金を使って事件を解決していく、そんな話。確か、映画にもなった。それと共通点がある。アルメンは、ナイトクラブで、ホステスとボーイを懐柔するために、「ドン・ペリニョン」を何本も開け、ホテルの従業員に百ユーロ札でチップをばら撒く。しかし、違うのは、富豪刑事は本当に大金持ちなのだが、アルメンは実はピーピーなのである。彼の住むのは、大きな屋敷の(昔はそこに住んでいたのであるが)庭にある庭番の住む小さな家である。しかし、金がなくても、絶対にライフスタイルを変えないというのは、すごい設定だと思う。
コメディーであるので、ご都合主義である。そこをとやかく言っても仕方がないのであるが、コンピューターに関する設定はかなりお粗末。ソコロフほどのコンピューターの達人が、自分のラップトップにセキュリティーを掛けていないで、誰でも内容が見られてしまうというのは、いくらストーリーの展開のためには必要と言っても、
「ちょっと有り得ないんじゃない。」
と思ってしまう。これはもちろん、私がコンピューターを生業とする人間であるから感じることかも知れないが。
この物語は三つの部分で構成されている。第一部はアルメンがソコロフを見つけるまで。突如姿を消したソコロフの居場所を探ろうとするアルメンとカーロスの努力が描かれている。彼らが行く場所に必ず先行する英国人と米国人は誰かという謎が提示される。第二部はソコロフの滞在していた、バルト海に面した保養地の高級ホテル、そこでアルメンとソコロフの間に交友が生まれる。第三部はソコロフの死後、スイスに帰ってからの話、アルメンとカーロスは英国人の二人組に襲われる。ここで英国人、米国人の招待と「ピンクのダイヤモンド」が何であるかが初めて明らかになる。
それぞれの登場人物が、それぞれの役割を演じるのであるが、良く分からないのが、アルメンがホテルで会うヴァネッサという人妻である。彼女は夜、アルメンの部屋に忍んできて、関係を求める。そこにソコロフが現れて、結局彼女は部屋を出て行くのであるが。ソコロフが同性愛者であることは、アルメンの「直感」によって示唆されている。ヴァネッサの役割は、アルメンが同性愛者でないことをソコロフに分からせることなのか、やはり良く分からない。
このシリーズ、二〇一五年の暮れまでに四冊が刊行されているが、ズーターはマンネリズムを売り物にしようと決めたのか、どの四冊も、同じ人物が、同じパターンで、同じギャグを使うという、吉本新喜劇的な設定となっている。しかし、そのマンネリズムも、ボチボチ限界に来ているように感じる。今後どうなるかを注目したい。
(2015年12月)