ソルト・アンド・ペッパー
オーストラリアと言えば・・・
K子さんの運転で、彼女の住むエデンス・ランディングという町に向かう。彼女がブリスベーン周辺の地理を説明してくれる。ブリスベーンの北側がサンシャイン・コーストという海岸。南側がゴールド・コーストという海岸。彼女の家は、町の南側で、町中へも、ゴールド・コーストへも四十五分くらいで行けるという。ゴールド・コーストなる場所がどんな場所なのか見当もつかない。ともかく、日本人の観光客が押し寄せる場所だそうだ。
僕はK子さんに、どうして、英国からオーストラリアに移住する気になったのと聞いてみた。
「私には英国の天気がどうしても耐えられなかったの。ここではほぼ一年三百六十五日太陽が見られるから。」
彼女はそう言った。確かに、太陽は心まで明るくしてくれる。天気の悪い英国に住んでいると、それがよく理解できる。まして、彼女は暖かい鹿児島の出身だ。真夏と言うことで、もっと暑い気候を覚悟してきたが、気温は三十度前後。風もあって、なかなか快適だ。
「クリスマスは普段はもっと暑いの。四十度くらいになることもあるわ。でも今年のクリスマスは不気味なほど涼しいの。」
とK子さんは言った。零度のロンドンから四十度の気温差は、いくらなんでも辛いものがある。僕は今年のオーストラリア東海岸の「涼しい夏」に感謝した。
丘の中腹の彼女家に着く。平屋で、三十畳ぐらいのリビング兼ダイニングがあり、ブルーのタイル張られている。寝室が三つとご主人のRさんの書斎。バスとトイレとガレージ。リビングルームの隅には小さなクリスマスツリーが飾られていた。その下にはクリスマスプレゼントが置いてある。クリスマスプレゼントは、二十五日の朝に開けられるのだ。
僕のスーツケースの中身の半分は、ロンドンから持ってきたK子さん一家へのクリスマスプレゼントが占めていた。僕はエリーを呼んだ。
「これからきみの家族の皆へのクリスマスプレゼントを渡すから、どれが誰のものかきみに覚えていてほしいんだ。」
僕はエリーにプレゼントの箱をひとつずつ渡し、英語で受取人を説明した。
「大丈夫。分かったわ。」
彼女は英語でそう答え、四つのプレゼントの箱をツリーの下へ運んだ。彼女の学校は「夏休み」に入ったばかり。一月の終わりに学校の新学年が始まり、彼女は四年生になると言う。「夏のクリスマス」、「一月の夏休み」、どうも北半球から来た人間にはピンと来ない。
灰色のネコが二匹ベランダの戸の隙間から入ってきた。K子さんの家の飼い猫らしい。
「名前は何て言うの。」
と僕が聞くと、エリーが答えた。
「『ソルト』と『ペッパー』(塩と胡椒)よ。」
住んでいる動物たちがずいぶんユニーク。