サボテンの花

 

ピルゴスの街をバックに人気のない道を登っていく。

 

月曜日である。六時半ごろ目が覚めるが、今日は歩く予定なので、スタミナ温存のため、朝の散歩はやめておく。まだイワシが残っていたので、ワイン、醤油、レモンで煮つけを作り、朝ごはんに食べる。マユミが起きてくる。今日は山の上にある遺跡「古代ティラ」へ行く予定。

朝食を食べながら、

「まさか『古代ティラが』今日休みってことないよね。」

と僕がマユミに尋ねる。念のため彼女が旅行案内書で確認する。しっかりと月曜日はお休みであった。

急遽地図で代替目的地を探す。部屋の窓からサントリーニ島の「最高峰」が見える。標高五百四十メートル。頂上に由緒正しき修道院があるという。行き先を変更して、その山に登ることにする。

マユミは登山靴、僕はジョギングシューズ、ふたりとも歩く準備をして、水とパンと果物をリュックに入れ、九時にペリヴォロスからバスに乗る。バス代はふたりで、二ユーロ八十セント。

二、三日前に訪れた、山に張り付いた美しい村、「サントリーニ島のアッシジ」、ピルゴスでバスを降り、修道院「プロフィティス・エリアス」のある山へ向かう道を歩きだす。車の通る道路が付いているが、滅多に人にも車にも出会わない。数台の観光バスが追い越していったくらいである。道端にはロバがつながれていたり、ザクロの果がなっていたり、のどかなものである。雲が多く、これから登る山の頂上は雲に隠れたり現れたりしている。

標高が高くなるにつれて、展望が開ける。僕らの済んでいるペリヴォロスの村も眼下に見える。双眼鏡を取り出して、僕たちのアパートを見つける。

歩いているときは基本的に暇である。ついつい歌がでる。

「サボテンがある。」

とマユミが言うと、

「ほんの小さな出来事に〜、愛は傷ついて〜、きみは部屋を飛び出した〜、真冬の空の下に〜」

と僕が歌いだす。

妻:「突然どうしたの。」

僕:「これ、『サボテンの花』。」

妻:「その歌、誰が歌っていたの。」

僕:「財津一郎。」

妻:「まさか。」

僕:「ごめん、違った、財津和夫だった。」

古い記憶はもう滅茶苦茶。まるで漫才である。

 

見晴らしの良い場所で休憩。島中が一望に見渡せる。

 

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