ドイツ人のお国自慢
ワインを飲みながら日没を待つ。
この「ワイン城」でも、客の半分くらいが中国人の団体旅行客。おそらく、サントリーニ島は中国人にとって観光スポット、どのパッケージツアーにも組み込まれている場所なのであろう。日本の団体旅行客が、ドイツ、ハイデルベルクの古城の訪問客の半分を占めているように。しかし、中国人というのは、いつもながら、「けたたましい」人々である。
白ワインとミネラルウォータを飲みつつ、傍らチーズをつまみつつ、テラスのテーブルのひとつに陣取り、日没を待つ。水平線付近に雲がなく、昨日のイアの場合とは異なり、太陽が水平線に直接沈むのが、今日は見えそうである。太陽が水平線に近づくにつれ、空の色や海の色が刻々と変っていく。そして、白ワインは癖のないスムーズな味わい。水のようにスイスイと喉を通る。しかしその後口の中にはほのかな太陽の香りが広がる。気温は寒くもなく暑くもなく快適。いつまでもそのままでいたい、そんな夕方である。
隣の席は老夫婦。ドイツ語で話している。
「どちらから来られたのですか。」
とまたまたまたドイツ語で話しかけると、ハノーヴァーからだという。サントリーニ島からフェリーで二時間半の場所にあるナクソス島で休暇を過ごし、ナクソス島にはジェット機の降りられる飛行場がないため、明日ドイツ行きの飛行機の乗るために、一晩だけサントリーニ島に滞在しているのだという。
「私たち、ハノーヴァーの人間が喋っているのが標準ドイツ語なの。」
とご夫婦は得意げに言う。ドイツには方言が多いが、東京やパリのようにこれと言って、中心がない。それで、テレビのアナウンサーが喋る標準ドイツ語「ホッホドイチュ」として、「ハノーヴァーで話されているドイツ語」が選ばれたという話を聞いたことがある。
昨日、マインツから来たカーリンとトーマスと話したとき、マインツはドイツで一番気候の良い土地であると自慢気であった。今朝、イメロヴィグリで出会って話したニュルンベルク出身の男性は、ニュルンベルクはドイツで犯罪の発生率が低いことを、得意そうに語った。ドイツ人のお国自慢はなかなか面白い。
マユミは僕がドイツ人とばかり話しているのがちょっと不満そう。
「ポルトガルとかカナダとかちょっと変った国のひととお友達になろうよ。ドイツ人の友達はもういっぱいいるし。遊びに行くならもっと別の国が良いわ。」
しかし、僕らが英語、日本語以外にまともに話せる言葉がドイツ語だけしかないこと、ドイツ人が「ドイツ語を話す外国人」に異常に親切であること、おそらくこの島には中国人に続いてドイツ人の観光客が多数派であること、以上を考慮すると、この傾向は続きそう。
カルデラの湾に夕日が沈む。日が沈むと急に風が冷たく感じられる。僕たちと隣のドイツ人の老夫婦は同時に席を立ち、お互いに、
「お気をつけて。」
と挨拶して別れる。
そして、日没。この場所で夕日を浴びながら結婚式を挙げるカップルもいるという。