元気な八十歳
アモウディは水のきれいな最高の海水浴スポット。
午後一時ごろにイメロヴィグリを発って、昨日の夜を過ごしたイアにまた行ってみる。そして、今日も先ず、坂を下って、前日トーマスとカーリンに会った、アモウディの港へ行く。そして、彼らと出会ったまさにその場所へ。昨日と違うところは、ふたりとも今日は水着を持っていていることであった。早速水着に着替えて、水の中に飛び込む。水面に近いところには小さな魚が、深いところには少し大きな魚が一杯いる。魚の群れの中を泳ぐのは面白い。何より、水の色が、鮮やかな青い色、その色に包まれているのは、良い気分である。
島の周囲を泳いでみる。直径が百メートルに足らない島なので、一周泳いでも四百メートル程度。陸地からは見えないが、反対側には、こんな小さな島というより岩なのに、何と教会が立っていた。風の強い日で、島の反対側に来ると向かい風。波がまともに正面から来るので、なかなか進まない。海の底を見ると、岩の間にたくさんのウニが転がっている。次回、手袋と網を持ってくれば、ウニも食べることができるのである。
一通り泳いだ後、車で坂を登って、二百メートル上方のイアの街に戻ることにした。車を出そうとすると、年配の四人の女性が、話しかけてくる。
「ノー・タクシーなの。呼んだけど来ないの。上まで連れて行ってもらえませんか。」
たどたどしいが、一応英語でそう言っているようである。
「あと二人だけしか乗れないけど、それでもいいですか。」
と、こちらも何となくたどたどしく聞く。二人で十分だというので、四人の女性のうち二人を後ろの席に乗せて、走り出す。お婆さん同士はドイツ語であった。
「どちらから来られたのですか。」
とドイツ語で聞く。そこから会話がドイツ語になる。
「オーストリーよ。彼女は八十歳なの、私は六十七歳。上までとても歩いては上がれないわ。」
と若い方が言った。しかし、年配の方の女性も、どう考えて八十歳には見えない。
「八十歳には見えませんよ。お若く見えます。」
社交辞令ではなく、正直にそう言う。先ほど一緒にいた四人の女性のうち、三人までが姉妹で、あとの一人は仲の良い友達とのこと。
「港まではどうして下りて来られたんですか。」
「歩いたの。下りはなんとかなったけど、上りはもうダメ。」
でも、元気なお婆さんたちである。間もなくイアの街の駐車場に着く。降りた後、若い方の女性が、マユミに「タクシー代」の十ユーロ札を渡そうとしている。
「僕たちもどっちみちここまで来るのでしたから。」
とお金は固辞する。ふたりは何度も僕たちにお礼を言った後、ひとりは八十歳とは思えない元気な足取りで、スタスタと坂を登って言った。マユミとふたり感心しながら、ふたりの元気なオババたちの後姿を見送る。
昼下がり、犬もシエスタの時間。