サントリーニ島土産
イメロヴィグリの街で、スケッチをするお姉さん。美しい場所では絵心が刺激される。
例によって七時にアパートを出て、海岸沿いを散歩する。今日は水平線付近に雲があり水平線からの日の出は見えない。風が強く雲が多い。サントリーニ島の最高峰(と言っても標高五百メートル強なのだが)の頂上には雲がかかっている。
飯を炊いて、朝から残ったイワシを唐揚にして食う。狭い島のこと、二日間であらかたの名所は行き尽くしてしまった。今日はまだ行っていないイメロヴィグリという場所と、昨晩訪れたイアにもう一度行ってみることにする。明朝レンタカーを返さねばならないので、車が使えるのも今日が最後である。
十一時ごろに車でアパートを出て、フィラのひとつ北にあるイメロヴィグリの町に行く。途中、今日夕食を食べる予定の、ワイン工場のレストランへ立ち寄る。マユミにテーブルを予約してくれと頼む。しばらくして戻ってきた彼女は、
「六時ごろでもまだ席はいっぱい空いているって。もうシーズンじゃないから。」
イメロヴィグリは標高三百メートルで、カルデラの中でも、一番高い場所だという。基本的に、「崖の上に立つ白い街並み」ということで、フィラやイアと似ているが、ここは街から盲腸のような、あるいは出ベソのような小さな半島が出ている。町から階段を下って、その半島に行ってみる。半島の周囲は切り立った崖である。人がひとり通れるだけの細い遊歩道がついている。その道を辿って半島の先端に行くと、海に面した場所に小さな教会があった。その白い教会と、深い藍色の海のコントラストが実に素晴らしい。
教会の後ろの崖を上っている男がいる。足元は溶岩で崩れやすい。危なくないのかなと思う。彼は写真を撮っているのである。崖から降りてきた彼に、
「良い写真とれましたか。」
と聞いてみる。彼はドイツ人であった。それでまたまたドイツ語で話す。ニュルンベルクから来たという彼は、辺りある岩のカケラを集めていた。
「何してるの。あなた地質学者なの。」
と聞いてみる。
「友達に『サントリーニ島しかないもの』を持って帰ってきてくれと頼まれてね。それで溶岩を集めているの。これって、ここにしかないでしょ。」
確かに、火山の多い日本とは違い、ヨーロッパで溶岩は珍しいかも。それに何より只だし。
半島で、中国人の若いカップルに写真を撮ってくれるように頼まれる。カメラを向けると、彼らは向かい合って抱き合った。なかなか大胆な中国人である。カメラはニコン。
サントリーニ島ではやたら中国人の旅行者に会う。ここは中国人にとって、観光スポットなのかも知れない。そして、彼らに共通することは、高級一眼レフを持っていること。僕もニコンの一眼レフを持ち歩いているが、例えばこのカップルは、僕のより一段も二段上の、十万円以上するモデルを持っている。高級カメラは、中国人にとって、一種のステータスシンボルなのかも知れない。そして、ツアーでサントリーニ島に来ること自体も。
半島の先にある教会。城と藍色のコントラストがギリシアの国旗のよう。