指輪物語(二)
夕日に照らされて、オレンジ・ピンクに染まったイアの街。
カーリンの話は続く。
彼女が店の主人に、
「どうして、一年間その指輪を売らなかったの。」
と聞いたところ、主人は、
「一年前に来た女性がその指輪を見て、買えないことで、余りにも悲しそうな顔をしたので、それが気になって売れなかったのだ。」
と答えた。カーリンは自分がその女性であり、この指輪を買うためにまたサントリーニ島に戻ってきたことを主人に告げる。金の値上がりもあって指輪の値段は前年の倍になっていた。しかし、主人は彼女の前の年の値段で、指輪を売ってくれた・・・
なかなか良い話だが、保険の代理店を経営しているというトーマス夫婦は、基本的に金持ちなのであろう。おそらく、その指輪、何千ユーロ、何十万円もしたものと思われる。
六時前、夕日を見に行くために、僕たちは彼らと別れて、イアの街に戻ることにした。ほんの二時間ほど一緒に過ごしただけなのに、分かれ際、カーリンとマユミは抱き合っている。
さしあたりの問題は、いかにして、崖の上二百メートルのイアに戻るかということである。それにはふたつの方法がある。
一、車で戻る。しかし、「夕日鑑賞」の時刻は駐車場を見つけるのが困難であるという。
二、ジグザクの標高差二百メートルの石段を登る。夕日を見た後、階段を下りて車を取りに来る。
僕は、歩くのが面倒であるという単純な理由で、車を使うことにした。坂道を登って行くと、何とか町外れに駐車スペースが見つかった。
イアも、細い路地と白い家で構成された街である。岬の先端に近づくと、夕日を見るのに集まった人たちでいっぱい。見晴らしの良い場所には、人が鈴なりになっている。何故か三分の一くらいが中国人である。
残念ながら、水平線近くに雲があり、太陽は水平線には沈まず、その直前に雲に隠れた。それでも、太陽が低くなるにつれて、白い街が、オレンジっぽいピンク色に染まるのは美しかった。
夕日を見た後、展望レストランで食事。昼間少し休んだが、車を運転し、海岸で長い間太陽に当たっていたせいか、僕は疲れている。運転があるのでビールも飲めないし。
イアの街を歩く。基本的にフィラに似ているが、宝石店、高級ブティックが多い。遊歩道にも白い大理石が敷き詰められており、それに灯りが反射してきれいだ。マユミもサントリーニ島で見た街や村の中で、ここが一番良いと言った。犬がたくさん路地で寝ていた。
八時半、街を出て、暗い山道を運転しながらアパートに戻る。イアの街で、ギリシア民族音楽名曲集のCDを買っていたので、それを鳴らしながら運転をする。
夜のイアの街もなかなかロマンチックで良い。