ロバの背に乗って

 

ロバの背に乗って坂道を登って行く。

 

「温泉」に浸かった人々は、また船に向かって泳ぎ、梯子を使って船に上がる。硫黄分の多い水なので、水着の白い部分は、硫黄で黄色く染まっている。レプのアンディが、昨日、濃い色の水着を着て行くように、僕らに言ったのを思い出す。

船は、「温泉」のあったパレア・カメニを離れ、ティラシア島へ向かう。ここは、フィラからちょうど対岸に当たる。今では、小さな島になっているが、昔、大噴火の前はサントリーニ本島と一帯となり、大きな円形の島を構成していた。島に近づく。水は「エーゲ海ブルー」。あくまで澄んでおり、波止場に近づくと、水中に無数の小さな魚が泳いでいるのが見える。船着場の傍には数軒のレストランとカフェがある。

アンディの話では、崖の上にあるレストランで、眼下に広がる景色を見ながら食べる昼食が最高であるとのこと。それで、村まで上がることにする。歩いて登るには、ちょっときつすぎる。僕らはネア・カメニで坂道をもうすでにかなり歩いていた。

初めてロバを利用することにする。「ドンキー」と書いた立て札のそばにいるオヤジに、ロバに乗りたいと言う。上まで一人五ユーロだという。マユミが二人分十ユーロをオヤジに渡す。すると十数匹のロバがつながれている、厩舎に連れて行かれた。そこで、指定されたロバのあぶみに足をかけてヨイショと背に乗る。僕とマユミのロバの後を、鞭を持った兄ちゃん三匹目のロバが続く。

マユミのロバが突然立ち止まり、ジャージャーと小便を始めた。坂を登っている途中、前を行くマユミのロバの肛門が開き、ボタボタと大便がこぼれ落ちる。でもロバは歩みを止めない。僕はふと考える。

「先ほどロバはおしっこのとき立ち止まったが、うんこのときは立ち止まらなかった。これはなかなか面白い現象ではないか。」

試したことがないので、確実には言えないが、人間、歩きながらおしっこはできても、歩きながらうんこはできないと思う。ロバはその常識の逆をいく動物なのである。乗り心地はそんなに悪くない。少なくともエジプトで乗ったラクダよりは、揺れが少なく、はるかに楽だ。ジグザグの道を登り、崖の上、二百五十メートル上方のマノラスの村に着いた。そこのパノラマレストランで遅い昼食。炭火で焼いたタコが美味しい。醤油を持ってこなかったことを少し悔やむ。しかし、レストランの値段は、標高と同じように高い。

フィラの街は、対岸から見る方がきれいなような気がする。赤茶けた崖の上の白い建物。降り積もった雪のようでもあるし、チョコレートケーキの上にかかった粉砂糖のようでもある。

四時二十分、船はティラシアを出発、夕日で有名なイアの村で夕日見物の乗客を下ろしたあと、フィラのオールドポートに寄りアティニオス港に戻る。

船から見える崖には、色々な地層が露出しており、カラフルで楽しい。地質学の専門家が見ると、大いに興味のあるところであろう。しかし、よく歩いたし、ビールも飲んだし、帰りの船で僕はずっとウトウトとしていた。

 

対岸のフィラの街を見ながら昼食にタコを食う。

 

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