火山と温泉
まだ蒸気が出ているネア・カメニの噴火口のひとつ。
島に上陸、「ドイツ語、英語を理解する客」担当のガイド、ジェイソンの後に付いて、島の中へと分け入っていく。溶岩でできた島で、植物は全く生えていない。時々トカゲが溶岩の間をチョロチョロと歩いているのが唯一の生物のようである。おりしも、昼過ぎ、太陽を遮る木もない坂道を登っていくと、暑さで息苦しく感じる。おそらく、活火山であるので、島全体に熱気がこもっているのだろう。
ジェイソンの後に参加者の列ができる。暑いし、最近は昔のような体力もないので、ゆっくり歩けばよいのだろうが、どうしても、陸上部時代の「性」なのか、「先頭集団」から離れまいと頑張ってしまう。
二十分ほどで、島の最高地点、百四十メートルに登り詰める。そこの三角点に座ってジェイソンが説明を始める。サントリーニ島の周辺では、地中深く、アフリカン・プレートがヨーロピアン・プレートに潜り込んでおり、地震が多く、火山活動が活発であるとのこと。太平洋プレートがアジア大陸のプレートの下に潜り込んでいる日本と同じ事情。
島は紀元前千六百年に、島のほとんどの部分が吹き飛ぶような、大爆発を起こした。その時の火山灰が、カリフォルニアの地層やグリーンランドの氷の中から発見されているらしい。ともかく、とてつもない噴火で、その後数年間、大気中の火山灰で太陽の光が遮られ、世界の気温が一時的に下がったという。
ジェイソンによる地質学的な説明が終り、港へ降りる途中、いくつかのクレーター(昔の噴火口)を覗いてみる。ある噴火口からはまだ蒸気が上がり、硫黄の匂いが立ち込めている。地面に直径七十センチほどの穴が開いている。手を差し入れてみると驚くほど熱かった。僕は、天草に住む友人のトケシ教授夫妻に案内してもらった雲仙を思い出した。火山自体、日本ではかなりお馴染みの風景だが、ヨーロッパで火山があるのはアイスランド、イタリア、ギリシアくらい。火山に馴染みのないヨーロッパ人にとって、活火山に触れることは、おそらく、滅多にない貴重な体験なのであろう。
午後一時半にネア・カメニを離れて、隣にある少し小さい島、パレア・カメニに向かう。この島はネア・カメニよりも古いが、やはり溶岩でできた島である。そして、ここには「温泉」があるという。島の五十メートルほど手前で、
「船は接岸できないから、泳ぎに自信のある人だけ、自分で泳いで温泉に行ってね。」
と、ギリシア語、スペイン語、英語、ドイツ語で案内がある。妻も僕もこのことを知っていたので、服の下に水着を着ていた。Tシャツとショートパンツを脱いで、僕たちも船から海へ飛び込む。水温は二十五度くらい。そこから教えられた小さな湾に向かって泳ぐ。次第に青い水が黄味を帯び始め、最後はオレンジ色になり、水が生ぬるくなりだす。しかし、均一に温度が上がっていくのではなく、冷たい水と、暖かい水が交互に現れる感じ。湾の奥は、深さ七十センチくらいの浅瀬になっている。水温は三十度くらい。とても日本の温泉の感覚ではない。もう少し温かければ気持ちが良いのに。
次々と海に飛び込み、「温泉」に向かう。