断崖絶壁の上の街
フィラの街。「泳ぎすぎ」で肘にサポーターをしているマユミ。
説明会が終わった後、バスでサントリーニ島の「首都」、フィラまで行ってみることにする。ペリヴォロスの海岸で日光浴をしながらバスを待つ。海岸に出ている人は今日もまばらである。アンディは説明会で、
「皆さんは、トーマスクックの主催する今年最後のサントリーニ島ホリデーツアーの参加者です。」
と言った。つまり、来週からは少なくともトーマスクックの飛行機は飛ばないわけである。もちろん、地元の航空会社やフェリーでは島に来ることができるが。
バス停の向かいのカフェから、音楽が大きな音で鳴っている。しかし、それが人気のない砂浜に何と空しく響いていることか。
「音楽は、時には寂しさを強調するものである。」
僕はそのとき思った。
三時半、定時にバスが来た。バスはペリッサに立ち寄り、フィラに向かう。ビキニのままバスにあわてて乗ってきて、バスの中でその上にスカートを履いている若い女性がいる。
「ちょっとお姉さん、それ、大胆すぎるんとちがう。」
アイスクリームを持ち込み、運転手に叱られているティーンエージャーもいる。そんな観光客や地元のおじさん、おばさんたちを乗せてバスは出発。
バスは真直ぐフィラに向かうのではなく、途中でいくつかの村に立ち寄る。三十分ほどでフィラのバスターミナルに着いた。「バスターミナル」と言っても、バスが横に三、四台並べば一杯になってしまう場所だ。ともかく、フィラから放射線上に島の各地にバスが出ているとのこと。
フィラはカルデラの絶壁の上に位置している。バスを降りて石畳を登る。展望が開ける。両側には白い家々が広がり、その下は断崖絶壁になっていて、二百メートルほど下に海が見える。海には大きな白い船が五隻ほど停泊していた。
クレタ島を訪れたとき、サントリーニ島まで日帰りで来ようと思えば来ることはできた。結果的に僕たちはそれを断念した。フェリーが出るのが、僕たちの宿のあったカリヴェスから車で二時間近くかかるイラクリオンであり、日程が余りにも強行軍になること。費用がひとり百ユーロを越え、余りにも高いというのがその理由であった。下に泊まっているフェリーのどれかは、クレタ島からきたものかも知れない。
街を歩いてみる。海を見ながら、白い家と壁に囲まれた狭い路地を歩く。確かに、サントリーニ島とこのフィラの街は、他のエーゲ海の島々と全く違った、独特の雰囲気を持っている。
しばらく行くと、二百メートル下の波止場と町を結ぶケーブルカーがあった。そのケーブルカーで、船を降りた人々が上がってくる。下に停泊中の巨大な客船には中国人の乗客が沢山乗っているらしく、あちらこちらで、「けたたましい」中国語が聞こえてくる。
フィラの街から湾を見下ろす。大きな客船が何隻も停泊している。