真剣に泳ぐ人泳がない人
ペリッサの街では「地ワイン」をペットボトルに入れて売っていた。
六月のクレタ島で日光浴をしていると、暑いのと、太陽が強すぎるのとで、十分と直射日光の下におれなかった。しかし、今はお彼岸も過ぎ、太陽の光もぐっと優しくなり、気温も低く、かなり気持ちよく日光浴ができる。身体が熱くなると、横のプールにポチャンと飛び込むわけだが、元水泳部の僕は、水に入るやいなや、本能的に真剣に泳ぎ始めてしまう。特に今日は、プールの水温が結構低いので、泳がないと寒いのである。
息子がガールフレンドのミランダに、
「プールのあるリゾートホテルに行くと、周りのお客さんが、日光浴をしているか、プールでプカプカ浮いている中で、うちの家族だけがいつも真剣に泳いでいるんだよね。」
と言っていた。ミランダのお父さんもお母さんも、やはりプカプカ組であるという。
しばらくして、マユミもプールにやってきて、やはり泳ぎだした。彼女も、真剣に泳ぐ「タチ」である。ふたりで真剣に何度もラップを刻んでいる僕たちは、プールの周囲でノンビリ日光浴をしている人たちの、半ば呆れ顔の視線を感じた。
午後二時に旅行会社のレプ、アンディが、島の見どころの説明をしてくれるというので、その会場になっている近くのレストランに出かける。そこには、昨日この近くのホテル、アパートメントに到着した五組、十人ほどのメンバーが集まっていた。同じアパートに住み、午前中プールサイドで会った中年カップルの旦那さんが、妻の肘のサポーターを見て、
「それ、泳ぎ過ぎでなったの。」
と聞いてきた。妻は十日ほど前から「テニス肘」、普段はサポーターをしている。今日の午前中、あまりにも気合を入れて泳いでいたので、周りの人々が心配してくれたらしい。
旅行会社の奢りのワインあるいはジュースを飲みながら、アンディの話を聴く。どのリゾートでも、着いた翌日レプによる説明会があるが、このレプの話、聞いておいて損はない。観光の要点を上手に説明してくれる。
アンディの話によると、サントリーニ島は今では三日月型をしているが、昔は円形であったとのこと。紀元前千六百年前後に、この島は歴史に残る大噴火を起こし、その結果、島の内部の殆どが吹き飛んでしまい、外輪山の一部が、現在のサントリーニ島として残り、吹き飛んで、凹んでしまった中央部に、水が入り海になったという。クレタ島のミノア文明が滅びたのも、この大噴火による地震と津波によるものではないかと言われている。また、海に沈んだ伝説の大陸「アトランティス」は、このサントリーニ島がモデルではないかという人がある。湾の中心に噴火による溶岩でできた島があるが、まだ蒸気を吹き上げる場所があるとのこと。
その辺りの火山の事情を探求すべく、明日のオプショナルツアー、「火山めぐり」を申し込む。そして、明後日から三日間レンタカーを申し込む。しかし、オプショナルツアーとレンタカーを申し込んだのは、僕たちだけ。他の人たちは、ずっとプールサイドでゴロゴロして過ごすつもりなのかなあ。まあそれもひとつのホリデーの過ごし方であるが。
右下‘Perisa’の近くに僕たちは泊まっていた。