宿のオヤジの歓迎法

 

サントリーニ島の夜明け。クレタ島で撮った写真の流用ではありません。

 

六時半に起きる。ロンドンではまだ四時半。僕は現地では現地時間で行動する主義。

「今、ロンドンでは何時だ。」

などと、できるだけ思わないようにしている。前夜九時半から九時間近く眠った。結構すっきりしている。マユミはまだ眠っている。海岸までひとりで歩いてみることにした。

五分ほど歩いて海岸に出ると、ちょうど正面から太陽が昇るところであった。クレタ島では、ホテルの前の海から昇る太陽を何度も見た。クレタ島で見る日の出も、サントリーニ島で見る日の出も基本的には変らない。そして、どこで見ても荘厳で美しい。特に、太陽が顔を出す直前の雲の輝きと、その時の海の色は何度見ても飽きない。朝早くからシュノーケルを付けてもう泳いでいる人がいる。朝の海の中の景色はどんなのだろう。

七時半にアパートに戻り、昨日見たペリッサの青い屋根の教会の絵を描き始める。九時ごろにマユミが起きてくる。ふたりまた少し歩く。散歩を終え、アパートに帰り、階段を上がろうとすると、中庭に面したベランダで朝食をとっている夫婦が見えた。何と、昨夜レストランで話した、そしてその後店の前で踊ってみせた、ベルリンから来たドイツ人の夫婦である。今日帰るということだったので、

「グーテン・モルゲン(おはようございます)。」

の後に、

「グーテ・ハイムライゼ(気をつけてお帰りください)。」

も付け加える。

昨日の握り飯が残っているので、それを朝食する。握り飯だけでは愛想がないので、味噌汁も作る。ロンドンを出る前夜、荷造りをやっていると、「だしの素」がないのに気がついた。買いに行っている暇も無い。その代わりに高知の友人に貰った鰹節と、削り器を詰めた。家では滅多にやらないが、鰹節をカンナでカリカリ、コリコリと削る。しかし、この労働は報われる。削りたての鰹で取っただしは美味い。

朝食の後もしばらく絵を描いていた。しばらくしてそれにも疲れてきたので、下のプールへ行く。プールの横のバーにいる経営者のオヤジが、

「日本の歌がある。あんたのために特別にかけてあげるよ。」

と言う。サンベッドに寝転がって日光浴を始める。流れてきた音楽、ロックっぽくて国籍不明の曲だが、よくよく聴くとなるほど日本語だ。浜崎あゆみだと思う。オヤジに、

「このCDどこで手に入れたの。」

と聞く。

「『MP3』を、インターネットからダウンロードしたんだ。」

と言うことであった。色々な国からの客のために、色々な国のミュージックを取り揃えているわけ。商売熱心なオヤジである。日光浴をしているとき、音楽が途切れる。静寂。本当に静かな場所である。風の音が聞こえる。

 

プールサイドで本を読んでいると日本の歌が。

 

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