ゲイのカップルと乳母車

 

飛行機が高度を下げると青いエーゲ海が近づいてくる。

 

出発予定時間までまだ三時間以上時間がある。ここはイライラしても仕方がない。新聞を買い、ロビーでそれを読みながら待つことにする。新聞を広げると、ドイツの総選挙のニュースが出ている。日本では先月総選挙があったが、二日前、ドイツでも総選挙が行われた。その結果、ドイツ初の女性首相、アンゲラ・メルケルの率いる「CDU、キリスト教民主同盟」が勝利を収めたというニュースは、前日の新聞で読んでいた。勝利と言っても彼女の党だけでは過半数に満たないので、CDUは「FDP、自由民主党」と連立を組むそうな。それで、FDPの党首、グイド・ヴェストベレの写真が出ている。実はこの人、ゲイである。しかも、自分が同性愛者であることを公にして、その「奥さん」とも言える男性を常に連れ歩いているという、変った人である。妻に、ヴェストベレ氏の写真を示して、

「この人ゲイなの。」

と言うと、妻は、

「いかにもゲイって顔をしてるわね。」

と言った。

「ゲイ」で思い出したが、僕は前日の昼休み、いつものように運河に沿って散歩をしているとき、ゲイのカップルに出会った。ムキムキのごつい男性と、ちょっとナヨナヨした感じの男性、どこから見ても、典型的な同性愛カップルである。そのふたりが何と乳母車を押しながら散歩しているのである。

「どんな赤ちゃんが乗っているんだろう。」

実際、興味のあるところではないか。僕は、すれ違うときに、乳母車の中を覗き込んだ。犬が乗っていた。その話を妻にすると、声を立てて笑っている。

 ポケットには財布がふたつ入っている。大陸に行くときはいつもそうだ。黒い財布は英国ポンド、ピンクの財布はユーロである。自分では分かり易くて良いと思っているのだが。クレタ島へ行ったとき、(ギリシアはユーロ国であるので当然のことながら)僕がピンク財布から金を出すのを見て、スミレが、

「パパ、お願いだからその財布使うのやめてくれない。ゲイみたいよ。」

と言った。しかし、今日もそのピンクの財布を使っている。

 九時になりようやく搭乗ゲートの表示が出て、僕たちはゲートへ向かった。九時半に飛行機に乗り込む。旅行会社「トーマス・クック」のエアバスは、普通百五十人乗りのところに「無理クリ」百八十の座席を詰め込んでいて、シートはとても狭い。飛行機は十時少し前に離陸。安いチャーター便なので食事はない。お昼になり、僕たちは用意してきた握り飯を食う。窓の下には、アルプスの山々が見える。本を読みながら何度かウトウトする。

 約三時間半の飛行の後、飛行機は午後三時半にサントリーニ島に着陸。飛行機が高度を下げていくと、エーゲ海の島々が見える。海はまだあくまで青く「夏の色」。僕はブリスベーンからガダルカナル島に向かうときに見た、珊瑚海の色を思い出した。

 

トーマス・クック航空機からサントリーニ空港に降り立つ。

 

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