機材の交換の意味するもの
ガトウィック空港、出発の遅れを告げるモニター。
九月二十九日。サントリーニ島に立つ日、四時半に起きる。と言うと、とても早い時間に聞こえるかも知れないが、いつも五時半に起きている僕にとっては、いつもより一時間早いだけ。
昨夜眠る前に、息子のワタルと彼のガールフレンド、ミランダには「行ってきます」を言い、ふたりから「行ってらっしゃい」のハグを受けていた。数日前からミランダが滞在している。娘たち以外の若いお姉ちゃんと一緒に住んでいるのは変な気分。タオル一枚で風呂場から出て来る彼女に会ったときなど、ドキッとする。
台所で茶を沸かして飲んでいると、テネシー・ウィリアムズ作、「欲望という名の電車」のパンフレットが置いてあるのに気付く。昨夜末娘のスミレが出かけていたのは、この芝居を見に行っていたのか。帰ったら感想を聞いてみなければ。
四時四十五分に家を出て、車でガトウィック空港に向かう。約百キロ、一時間半の運転である。環状高速道路二十五号線を北から南へと時計の反対周りにぐるりと半周し、二十三号線でガトウィック空港へ。早い時間なのに空港に向かう道には結構車が多い。
妻:「こんなに早い時間なのに沢山の人が飛行機に乗るのね。」
僕:「今日はサントリーニ島に行く人が多いんやね。」
とボケておく。
午前六時過ぎに空港に着き、予約しておいた駐車場に車を預け、「トーマスクック」のチェックインカウンターへ行く。飛行機は「機材の交換」のため、予定の八時ではなく、二時間遅れの十時に飛ぶとのこと。飛行機というものは、いつもギリギリに来ると定時に飛ぶくせに、早めに来ると遅れる。
妻:「どうして遅れるの。」
僕:「『機材の交換』やて。」
妻:「それ何?」
僕:「つまりやね、朝格納庫から飛行機を出したら、『あちゃー、バッテリーが上がってしもうて飛べんわいね、別の飛行機を持って来ないかんぞいね。』ということらしい。」
まさか。ちなみにこれは妻の出身地、金沢弁の真似。
しかし、またまたギリシアのエーゲ海の島を訪ねることになった。六月に家族でクレタ島を訪れたときに、僕と妻の頭の中で、何かスイッチが入ったような気がする。幸いにして、(金の欲しい人には不幸にして)今年は残業を金ではなく代休で解決するという会社の方針で、残業と休日出勤をかき集めて、何とかもう一回、一週間の休暇が取れたのである。
前日、会社のミーティングで、明日から一週間いなくなるよと同僚に告げる。皆がどこかへ行くのかと聞く。ギリシアのサントリーニ島へ行くというと、
と答えると、同僚たちは呆れ顔で言った。
「ええっ、また行くの。」
ガトウィック空港、新聞を読みながら、飛行機の出発を待つ。