ポヨ子さんの手記、ポヨ子先生誕生
水汲みは、一番年下の者の役目。
学校が終わったのが一時四十分。学校が終わってから、わたしはホストファミリーの娘さんのカレン、彼女の友達のバレリーナとセルマと一緒に水を汲みに行った。昔は村を流れる川の水を飲料水にしていたそうだ。しかし、川上で木材の伐採が行われるようになってから水質が悪くなり、今は少し離れた場所にある湧き水を汲みに行かねばならないとのこと。
何本ものペットボトルを提げ、村を横切り川に沿って二十分ほど歩く。辺りの風景は目を見張るばかり。鬱蒼と木々が生い茂った険しい山の間に沿って谷川が流れている。
水場に着いた。セルマがボトルに順番に水を入れる係りだ。(村の習慣で、一番年下の者が水汲みをやるとのこと)カレンとバレリーナとわたしとは持ってきた全部のボトルが一杯になるまで、川沿いの岩に座ってお喋りをする。ティーンエージャーの女の子の話題は万国共通だ。ボーイフレンドのこと、将来の結婚のことなど。
ちょうどそのときソロモン諸島を訪問していた英国王室の一員、デューク・オブ・グロースター(エリザベス女王の従兄弟)の話になった。それどころか、カレンとバレリーナは、ウィリアム王子とハリー王子のことも詳しく知っている。私は不思議な気がした。何千キロも離れた地球の裏側のこれ以上辺鄙な場所はないという村で、自分たちのことが話題になっているなんて、ウィリアムとハリー、本人たちも絶対に想像していないだろう。
わたしをベティヴァツ学校に派遣するために世話をしてくれた誰もが、わたしが「先生のアシスタント」をするということで、手配をしてくれていたと思う。わたし自身も、いろいろなクラスを回って、本職の先生の手助けするものだと思っていた。しかし、二日目にわたしが学校へ行ったときに任されたことは、何と、自分ひとりで授業をすることだった!
わたしは英国とスウェーデンの小学校で職場体験をしたとき、子供たちを教えたことはある。しかし、それはあくまで先生がいる部屋での補佐であり、自分ひとりでクラスをコントロールするのではなかった。また、わたしの学校の先生を見ていて、「教え上手の先生」になるのはいかに難しいかも知っていた。
ともかく、その朝、わたしはひとりの先生の授業を参観した後、その先生に呼ばれた。そして、英語と数学の教科書を渡され、
「前の授業ではここまでやったから、次はここからやってね。」
と言われた。説明はそれだけ。わたしの心の準備は最悪のままだ。宿題がどうなっているのか、どこまで進めば良いのか、一切の説明のない。全て自分で判断をしてねと、わたしは全面的に信頼されているらしい。
わたしは覚悟を決めて教室に向かった。独りで教室に入り、十五人の生徒が一斉にわたしに好奇と期待の目を向けたとき、わたしの緊張は極限に達した。最初は英語の授業。ともかく、やるしかない。わたしは彼らを前に、定冠詞、不定冠詞の説明を始めた。
これが学校の職員室。