ポヨ子さんの手記、いよいよ村へ
トラックの荷台の真ん中に小さくなって街に向かう。
ソロモンに着いて四日目、八月三日、わたしがいよいよベティヴァツに向かう日だ。ホニアラからベティヴァツへの道のりは、島の感覚では「近く」だが、実際はかなり遠い。まず、トラックか四駆に乗り一時間ほど走る。海岸線から山へ向かう道に入る。車は途中までしか行けない。どこまで車行けるかはお天気次第。雨が降って道がぬかるむと車で行ける距離は短くなる。そこから、ジャングルの中の道を一時間半から二時間歩くと、いよいよベティヴァツだ。
わたしは、Gさん一家(Gさんと奥さんのフミエさんと娘さんと息子さん)、ベティヴァツで働くもうひとりのボランティア、マミさんと一緒にGさんの四駆に乗り、ホニアラを後にした。ベラ・ハと言う場所で車を降りる。わたしは三週間分の荷物の入ったリュックサックを担ぐ。そこからジャングルの中のトレッキングが始まった。途中、幾つかの川をジャブジャブと渡る。
わたしの心の中は不安で一杯だった。村でリツコさんが待っていてくれるということだけがかすかな希望だった。その道は、物理的に険しいだけではなく、一歩一歩「文明」から離れて行くように感じて、精神的にも険しいものだった。
細くて曲がりくねったジャングルの中の道を一時間ほど歩くと、急に開けた場所に出た。そこがベティヴァツ学校だった。そこでリツコさんが待っていてくれた。学校の先生と思われる何人かの人々と握手をする。そこから更に十分歩いたところが、わたしがこれから滞在するナモハイの部落だった。(リツコさんが住んでいるのはパンピリアという少し離れた部落だ。)
ホストファミリーの家に招きいれられて、リビングルームで家族の人々と会った。ホストファミリーのマッケンジー家は、お父さんのトーマス、お母さんのメアリー、女の子が三人と、男の子が三人。三番目のカレンはわたしと同い年。一番下のトシはまだ一歳で、メアリーに抱かれている。しかし、村での第一印象や、その時誰と何を話したかなどは、何故かわたしの記憶から抜け落ちている。おそらく不安な気持ちで一杯で、周りを観察する余裕など全然なかったのだと思う。
一緒に村まで来てくれた人々との別れは最悪だった。ジャングルの真只中で、全然知らない人たちの中にたった独り取り残される気分を想像してほしい。フミエさんとリツコさんにさよならを言うときは涙が出た。
わたしが涙を拭くと、隣でホストマザーのメアリーも泣いているのが見えた。わたしはその瞬間から、この場所で生きて行けると思った。ここにも、わたしの気持ちを理解して、わたしのために泣いてくれる人がいる、そう思うとわたしの心は急に軽くなった。
これ以降、わたしは村での思い出は楽しいものばかりだった。この後、わたしが村で何をしたかくだくだ書くのも退屈だし、村と村人について、いくつかのトピックに絞って書いてみようと思う。
メアリーと、一番下のトシ。