トーマスからのメール

 

マッケンジー家の朝ごはん。

 

 八月四日、僕はロンドンの自宅で、トーマス・マッケンジー氏から以下のような英文のメールを受け取った。

 

「拝啓。遠いソロモンより謹んでご挨拶を申し上げます。小生はトーマス・マッケンジーと申す者、ミス・モニカ・カワイに宿を提供している家族の長であります。昨日(八月三日)午後四時、モニカさんがJICAコーディネーターとそのご家族に付き添われ、無事我が家に到着されましたこと、ご報告申し上げます。JICAコーディネーターはモニカさんを私共に託し午後五時に村を去られました。モニカさんは我々の場所に落ち着かれ、本日より村の学校で教鞭を取られることになっております。我々は力の及ぶ限り、モニカさんのお役に立ちたいと心得ております。学校は我が家から十分の場所です。村人一同、モニカさんがベティヴァツで貴重な体験をされることを願っております。モニカさんがロンドンへお帰りになったら、色々と珍しい話をお聞かせすることができるでありましょう。機会を見つけて、またお便りを差し上げます。神のご加護がありますように。トーマス。」

 

どひゃー。五十年前の人から手紙をもらったみたい。そう言えば、エルキュール・ポアロがよくこんな英語を使っていた。僕は返事を書いた。

 

「親愛なるマッケンジーさん。モニカの父のモトです。お便り有難うございました。モニカがお世話になっています。娘が無事ベティヴァツに着いたとのお便りをいただき、妻も私も、心より安心しました。ふたつ質問があります。昨年私がベティヴァツを訪れたとき、村には電気も電話もないと思ったのですが。マッケンジーさんはどうしてEメールが打てるのですか。もうひとつ。村での食事に興味があります。モニカが何を食べているのかお教えいただければ幸いです。モト」

 

二日後、トーマスよりの返事が来た。

 

「親愛なるモトさん。娘さんのお世話をできること、私ども家族の喜びとするところであります。モニカさんはこちらの生活にも慣れられ、楽しく過ごしておられるご様子です。昨日から学校で教えておられます。貴殿のお察しの通り、村には電気もなく、我が家にはコンピューターもありません。小生は頻繁に町に出ます。私は幾許かの金を払い、町のインターネットカフェでEメールにアクセスしている次第です。モニカさんは米、ポテト、カサバ、メロンやパウパウなどの果物、トマト、ピーマン、キャベツなどの野菜を召し上がっておられます。また、モニカさんは米とタイヨウを持ってこられました。神のご加護がありますように。トーマス」

 

うーん。スミレはなかなか健康的な食生活をしているみたいだ。ここに出てくる「タイヨウ」というのはカツオの缶詰のこと。ソロモン諸島の周辺ではカツオがふんだんに獲れる。それで大洋漁業という日本の会社が、ここに缶詰工場を開いた。それ以来、内戦のためにその会社が引き上げた後も、カツオの缶詰は「タイヨウ」と呼ばれるようになったのだ。パウパウというのがどんな果物なのかは、見当もつかない。パパイヤのことだろうか。

ピクニックのランチはこうして作る。

 

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