電気ショック治療

 

 月曜日朝三時半、私は看護婦に起こされた。

「明日の朝治療を受けるので、これから何も食べたり飲んだりしてはいけません。」

看護婦はそう言って、枕元のテーブルにある、水差しとコップを持ち去っていった。そんなこと、夕べ寝る前に言えば良いことじゃないか。どうして、夜中に叩き起こしてそれを告げるのか。段取りの悪い人たちである。翌朝起きてみると、ベッドに「食事や飲み物を与えないでください」と書いた赤い札が掛かっていた。何か、動物園の中の動物になった気分である。

 

 九時ごろに麻酔科の医師が来た。彼は、私に治療が全身麻酔で行われることを告げ、アレルギーはないか、これまで手術をした経験があるかなど、聞いていった。私は盲腸の手術をした際、全身麻酔をかけられたことがある。麻酔の効いている間は一切時間の流れを感じなかった。瞬きして、目を開けたら、三時間後だったのである。その時、自分が死んだら、やはりこのように一切の時間の流れが止まるのだと、改めて認識したのであった。

 

 十時ごろに看護婦が来る。パジャマをガウンに着替え、膝のところまでのきちっとしたストッキングを履かされる。ストッキングの目的は不明である。脱水症状を起こさないためということで、点滴が始まる。

 午前十一時、手術室に運ばれるため、ちょうどベッドに寝たまま病室を出るときに、妻が現れた。ベッドの横を付いてくる妻が、

「上手くいけばいいね。」

と言う。私は妻にクロスフィンガーをして見せた。エレベーターが満員で、それに乗りそこねた妻は、手術室へ着く前にはぐれてしまった。

 手術室に着いた私は、そこで三人の麻酔科の医師に迎え入れられた。電気ショックは心臓病科の医師によって行われるとのこと。十分ほどして、その医師とふたりの若い男性と女性の三人が手術室に現れた。担当の医師はワイシャツにネクタイといういでたち。まあ、どこも切ったり縫ったりしないから、それでも良いのであろうが。

 若い男性が、これから行われる治療の、予想される危険、後遺症について読み上げ、「同意書」にサインをせよと言う。手術室まで連れて来られ、「俎板の上の鯉」状態で、同意も何もあったものではないと思うのであるが。ともかく、ざっと読んでサインをする。麻酔科の医師が、

「では、これから麻酔薬を入れます。」

と言いながら、点滴のチューブに麻酔薬の入った注射器を繋いだ。

「じゃあ、皆さん、私のためにクロスフィンガーをお願いします。」

私はそう言い終わる前に、意識を失った。

 

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