地獄八景亡者戯聞き比べ − 冥土のエンターテインメント(芝居編)
一同は向こう岸に上がります。そこはにぎやかな場所。道が六つに分かれていて、六道の辻と呼ばれているところです。その中でも一番広い通りが「冥土筋」、突き当たりが南海電車で高島屋?、それは御堂筋でしょうが。イチョウ並木?いえ、シキビ並木です。
勝手の分からない初めて来た亡者のために、(二回目に来る人なんてあるのでしょうかね)「観光案内所」があります。そこで様子を尋ねてみましょう。
(ナイトライフ)
六道の辻は繁華な場所、歓楽の巷です。キャバレー、クラブ、料理屋、お茶屋などが立ち並んでいます。ネオンサインの上がる「グランドキャバレー火の玉」では、本日のショーとして「幽霊のラインダンス」、「骸骨のストリップ」をやっています。幽霊がどうして足を上げるのか、骸骨がそれ以上何を脱ぐのか、それは分かりませんが。案内所の人に尋ねても、「土地の者は見たらあかんのです」とのことでした。
このキャバレーの宣伝文句、文珍によると「雨が降っても火の玉〜、風が吹いての火の玉〜」らしいのですが、文珍自身も、「そんなマニアックなこと言うても、誰も分かりまへんで」と述べています。実際、オリジナルが何であるのか、調べてみましたが不明です。
(食べ歩き)
庶民的なところでは、吉朝の案内の中に、玄関で三角の帽子を被った人形が太鼓を叩いている、食堂ビル「行きだおれ」があります。その中にはファミリーレストラン「死骸ラーク」や、「モンスタードーナッツ」、「冥土ナルドのハンバーガー」、「一つ目小僧寿司」などの店が入っています。気色の悪い店ばかりです。
(ショッピング)
枝雀によりますと、その横のショッピング街では、世界の一流品、ブランド品が揃うそうです。「ヒエール・カルダンの経帷子(きょうかたびら)」(ピエール・カルダンではありません。ちょっとまがい物でヒエール・カルダン)、「ウンカロの頭陀袋」、「モリ・バナエの手甲脚絆」、「テサントの芋殻の杖」、等々。全て「メイド・イン・冥土」です。しかし、そんな物を誰が買うのでしょうね。
(観劇)
冥土の芝居、特に歌舞伎は最高です。
「こっちの芝居を見たら、娑婆の芝居なんて、あほらしいて、見てられしまへん。名優はみなこっちへ来てんのやさかい。」
なるほどその通りです。芝居小屋、蓮華座では、忠臣蔵の通しをやっていますが、何と、初代から十一代目までの団十郎が皆出演しています。判官が団十郎、由良之助が団十郎、師直(もろのお、敵役)が団十郎、勘平が団十郎で、平衛門が団十郎で・・・と言うことは、誰が出てきても掛け声は、「成田屋!」だけ。これはややこしい。関西の歌舞伎では、先代の鴈次郎、仁左衛門、延若などが元気に活躍しています。
インテリの米朝さんだけは、新派にも、言及しておられます。喜多村緑郎、花柳章太郎、大谷市次郎、水谷八重子、皆そろっておられるそうですが、水谷さんを除いて、不勉強の私には誰が誰なのか、分かりません。
とにかく、「伊東に行くならハトヤ、芝居を見るなら冥土」と言うことになりそうです。(古う〜。書いている本人も、かなり落語に影響されてきたようです。)