地獄八景亡者戯聞き比べ − 鬼の船頭の料金表(一)
亡者たちは、三途の川を渡るために、ぞろぞろと渡し船に乗り込みます。渡し船は、霊柩車のような屋根のついた屋形船です。しかし、例え短くても、船旅と言うのは気持ちの良いものですね。私事ですが、昔、姉が北海道に住んでいた頃、大学が休みに入ると、姉を訪れていました。当時はまだトンネルはなく青函連絡船。「津軽海峡冬景色」を口ずさみながら、連絡船に乗り込むのはなかなかオツなものでした。今でも、テムズ河の水上バスに乗るだけで何となくワクワクします。きっと、たとえそれが三途の川の渡し船でも、乗れば私の気分は高揚すると思います。
「乗り前が決まりましたところで、もやい綱を解いて、鬼の船頭、グーッと櫂でひとつ岸を突きますというと、船は川の中ほどに出てまいります。櫂を操りながら中ほどまで来たところで、鬼の船頭、何を思うたか、碇を取り上げて川の中にザブーン。船が止まります。」
客:「おい、こんなところで船を止めてどないすんねん。向こう岸までちゃんと渡さんかい。」
鬼:「向こう岸まで渡してほしかったら、渡し銭を出せ。この船は施行船(せんぎょうぶね)じゃありゃせんのじゃ。」
この「施行船じゃありゃせん」と言うフレーズを、枝雀鬼は「チャリティーシップじゃありゃせん」、文珍鬼は「ボランティアでやってんのと違う」と英語で答えています。客から、鬼が英語を使うのはおかしいと指摘され、枝雀の鬼は「昔、テムズ河で船頭していた」と答え、文珍の鬼は「駅前のノヴァで習った」と答えます。テムズ河で、鬼の船頭が渡し船をしている、想像しただけで微笑んでしまう光景です。
さて、渡し賃、船賃ですが、病気と死に方で値段が違います。それで、乗客たちは、何で死んだのか、鬼に対して自己申告し、それに対して、鬼の船頭が料金を請求していくことになります。以下が料金表です。万事高直(こうじき)につき、最近閻魔さんからのお触れが来て(閻魔の触れなのでエンフレ)、最近は百倍で計算されることになりました。
<<鬼の料金表より抜粋>>
腎臓の病気で死んだ:おしっこが出にくくなる病気、シシの十六で、千六百円。
煙草を吸い過ぎて肺ガンで死んだ:パッパ六十四で、六千四百円。
コレラ、赤痢で死んだ:腹の下る病気なので、ピチピチ四十九で、四千九百円。
医者の誤診で死んだ:ゴシン二十で、二千円。
鯖に当たって死んだ:サンバ二十四で、二千四四百円。
お産で死んだ:サンシの十二で、千二百円。
産後が悪くて死んだ:サンゴ十五で、千五百円。
フグで死んだ:四苦八苦の苦しみなので、シク三十六と、ハック七十二で、一万八百円。
肝臓の病気で死んだ:カンゾウ(勘定)が分からんので後回し。
鬼は順番に料金を決めていきます。しかし、世の中は、そうそう単純なものではありません。料金表に載っていない、鬼が頭を抱えるような、ユニークな死に方をした者が続々と出てきます。果たして、鬼はどのようにして料金を決めるのでありましょうか。