年寄りは早寝である

 

浴衣のサイズと柄は自分で選べる。

 

夕食後、僕だけがまた落語を聞きに行く。同じ演者だが出し物は違う。観客も増え、酒が入り、腹も膨らみ、ぐっと活発になっている。落語は面白かった。大阪にできた「天満繁昌亭」という落語の席にも行ってみようと思っていたが、もう四席も聴いたので今回はこれで十分。

九時に部屋に戻ると、義父はグーグー眠っている。今朝は四時半に叩き起こされ、ずっと車を運転していたので疲れているのだろう。もう一度風呂に入り、「ラウンジ」に行ってみる。まだ十時すぎ。

バーで軽く風呂上りの一杯をと考え、バーの中を覗く。誰もいない!念のためにもう一度、営業時間と「営業中」という札を確かめる。しかし、自分ひとりきりというのは、ちょっと不気味で入る気がしない。僕はそのまま部屋に戻って寝た。そのとき学んだこと。

「老人は皆早寝なのだ」

 翌朝、父とふたりでまた大浴場に行く。清水寺の音羽の滝のような「打たせ湯」がある。勢い良く落ちるお湯を肩に当てると心地よい。

例によってバイキング形式の朝食をとり、九時半にホテルを出る。玄関先で記念撮影をする。歯の悪い京都の父の土産に、義父母が温泉卵を買ってくれた。しかし、山代温泉の町も、何となく閑散として、人気がないというか、元気がないというイメージは払拭できない。ホテルのコストの大部分が人件費であり、人件費を削減すれば、ひとり六千七百円でも、経営が成り立つ計算なのだ。しかし、そのために、一体何人の仲居さん、板前さん等の従業員が解雇されたことだろう。

ともかく、新しいタイプの温泉を経験できたことは大変勉強になった。落語も楽しかったし、「お湯は変わらない」の叔母の言葉通り、温泉のお湯はもちろん第一級のものだった。そして、今回、木津温泉と山代温泉で、両極端の宿を経験できたことも面白いと思った。

その日の午後、大学時代の友人のK君と一緒に食事をするために、京都に戻ることになっていた。午前中に金沢に戻る。実家へ戻った後、トシエ叔母がコーヒーを入れてくれた。ずっと和食が続いているので、たまに飲むコーヒーも良いもの。皆でコーヒーを飲んでいるとき、ピアノで静かなBGMを入れてみる。トシエ叔母に高級喫茶店に来たみたいねと言われる。

十二時に家を出て、トシエ叔母を送り、金沢駅へ。ホームまで義父母が送ってくれる。発車すると、すぐに眠ってしまい、気が付くともう敦賀を過ぎ、「サンダーバード」は琵琶湖の横を走っていた。

京都に着き、土産に貰った温泉卵を、父親と母親の家に届ける。金沢名物「芝寿司」も二パック貰ったのだが、丸々一パックは父と母には多すぎるだろう。ひと包みはこれから会うK君にあげることにする。K君も金沢大学の出身、きっと懐かしい味だろう。

六時にまた京都駅へ。数日前、カサネと待ち合わせをした同じ場所でK君を待つ。改札のすぐ前のゼロ番線に列車が停まる。「青森行」の寝台特急。何となくぎょっとさせられる。金沢や富山くらいならともかく、「青森」という行き先には心の準備ができていない。

 

京都駅中央改札口。隣で待っていた可愛いお姉さん。

 

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