観客平均年齢七十四歳
温泉寄席。全部で四席全部聴いてしまった。
風呂の後、五時半から第一回目の落語会。四人でホテル内の寄席、「ほのぼの亭」へ行く。演者は笑福亭風喬さんと笑福亭遊喬さん。六代目笑福亭松鶴の弟子、笑福亭松喬(しょきょう)のそのまたお弟子さんだ。僕は落語が大好きだが、普段聴くのは上方落語、大阪落語だけ。ふたりとも大阪の人なので安心して聞ける。
風喬さんは、活発で元気の良い芸風、遊喬さんはちょっと陰のある芸風。タイプが違う落語家を聞き比べるのも面白い。落語はもちろん独りで語る芸であるが、同時に客との「対話芸」である。落語家と客席との掛け合いがまた面白いのだ。その時は、観客が三十人程度、ちょっと可哀想な気がするが。しかし、プロだけあって、当然客の心を掴むのは上手い。大いに笑った。やはり寄席で、ナマで聴く落語は、CDとは全然違うと思った。
夕食前に、義父母、叔母も一緒に二席聞く。しかし、食事前のセッションで、演題が「相撲場風景」とはいかがなものか。最後、相撲を見に来ていて、おしっこを我慢できなくなった人が、酒飲みの空にした一升瓶に小便をし、それを起きてきた酒飲みが飲むというエピソード。松鶴の十八番だったが、食事を前に、小便の話はちと考え物。
寄席を出て、そのまま大食堂に行く。バイキング形式での夕食。和食だけではなく、中華、洋食も食べられる。欲を言うならば、刺身がいまひとつなのだが、料金が六千七百円なのだから、良しとしよう。
食事を取ってきて席に着いた義父が、
「寄席を聞きにきている人の平均年齢は七十四歳。モトヒロが一番若い。」
と断言した。本当にその通り。実は僕も、食堂に入ってから、辺りが爺さん婆さんばかりで、若い人が全然いないことが気になっていたのだ。連休が終り、若い人は皆仕事に忙しく、遊びに来られるのは年金生活者だけかも知れないと、僕は思っていた。
ここでまたトシエ叔母の鋭い分析が入る。
「この不況の世の中、失業者は増え、職のある人も、先のことは分からない。だから、金を使うのを控える。コンスタントに金を使えるのは年金生活者。しかし、年金生活者が使える金は、それほど多くない。もし、ホテルが年金生活者層をビジネスのターゲットにするなら、思い切った低価格が必要だろう。バイキング形式でホテルは人件費を大幅に削減できる。それと食事の内容。ホテルで、これまでのように、山のように並んだ料理は年配者には多すぎる。食べたいだけ食べられるバイキング方式が年寄りには合っている。私自身も仲居さんに給仕してもらうよりこっちの方が気楽でいいわ。」
そして、その後、叔母の重要な言葉を付け加えた。これぞ「ワード・オブ・ザ・デイ」。
「結局、温泉のお湯は同じなんだし。」
なるほど、このシステムは完全に年金生活者にターゲットを絞ったシステムだったのだ。「売り物」が落語と言うのもうなずける。観客が年寄りなのも計算済みなのだ。とにかく、ホテルも伝統とか格式とか言ってはおれない時代、生き残り、サバイバルに必死なのだ。
バイキング形式の食事。まあまあ「アクセプタブル」。叔母はこっちの方が気楽で良いとのこと。