加賀温泉郷の現状

 

朝食も「もちろん」タケノコご飯。

 

前にも書いたが、金沢に着いた夜、別所から金沢へ戻る車の中で、義母が、明日から一泊で「山代温泉・山下家」へ行くと言った。

今回の金沢での予定していたメインイヴェントはタケノコ掘りを見ることのみ。麻雀で言うと「リーチのみ、一翻」で、それ以外の手への展開を全然考えていなかった。余った時間は、ピアノの練習をするか、義父と大リーグの中継を見るか、市営プールで泳ぐか、のんびりと過ごすつもりだった。そこへ突如温泉行きが、しかも、かつては加賀藩主御用達、「本陣」の名のつくホテルへ行くことが決まってしまった。しかも、そのホテルには「寄席」があり、落語まで聞けるというのだから。僕の金沢滞在は、意外な展開により、突然盛り沢山なものになってしまった。麻雀で突然「満貫」の手が転がり込んできたようなものだ。

タケノコ掘りの見学の後、僕は朝食後二時間ほどまた眠った。その後は、「ヤンキーズ対レイズ」の試合をテレビで眺めていた。旨い物を食っては眠る。休暇中とはいえ小原庄助さん状態。世間では連休が終わり、今日からはお仕事の日、タケノコ掘りを終えて、また自分の仕事に帰っていった皆さんに、何だか申し訳がない気がする。

午後一時、近くに住むトシエ叔母をピックアップして義父の運転で山代温泉へ向かう。途中、松任の市営公園の横を通る。満開のフジが美しい。しかし、フジの蔓と言うのは、ネジネジとねじれている。誰かがねじっているのかな。皆でどうしてかと不思議がる。カキツバタもきれいだ。フジは公園や庭先だけでなく、道の両側に咲く野生のものも美しい。天気は相変わらずの霧雨。気温は十三度とかなり肌寒い。

途中、事情通のトシエ叔母から、加賀温泉郷の現状を聞く。石川県には、有名なだけでも、山中、山代、粟津、片山津の温泉郷があるが、バブルの崩壊、最近の不況で、老舗の高級温泉旅館、ホテルがバタバタと倒産しているらしい。事実、途中粟津温泉を通過したが、人気がなく、何となくゴーストタウンのような雰囲気だった。

潰れたホテルは空き家になっている場所もあるし、老人ホームに転用されたところもある。経営者が変り、全く別の経営方針で、再建を試みているところもある。これから行く「山下家」もそのひとつ。一度閉鎖され、新経営方針の下、四月二十六日に新装オープンしたところだと言う。

どのホテルも、まずは徹底したコストダウンによる低料金を実施している。平日、四人のグループで泊まると二食付きでひとり六千七百円。素泊まりのビジネスホテル並みの価格だ。仲居さんはおらず、フロントで鍵を受け取り、自分で部屋へ行き、布団は最初から敷いてあり、食事は大食堂でバイキング形式とのこと。しかし、このホテルに泊まるには、数年前までは最低でも二万五千円から三万円は出さねばならなかった。

このような経営方針になり、安く泊まれるホテル、旅館は加賀温泉郷の中にいくつかあるらしい。義母はこれから行くホテルを、毎晩プロの落語家による「落語会」があるので決めたという。義母は僕が落語好きを知っていたのだ。期待が持てる。

温泉へ。藤棚の前で義母と叔母。

 

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