タケノコ掘り
まだ薄暗い午前五時、タケノコ掘りが始まる。
高野家へは自転車で行くと主張したのだが、結局父が車で送ってくれることになった。四時半に起きて、山をひとつ越えて、別所に向かう。車のフロントガラスには霧のような細かい雨が当たっている。
高野家の前に車を停め、ゴム長靴に履き替え、軍手をはめ、雨カッパを着て、モノレールに向かう。昨夜会えなかった高野のお父さんに出合い、挨拶をする。
「ありゃ〜、ロンドンのあんちゃん、朝の早らからご苦労さんなこっちゃ。」
と高野父は言った。霧雨とも朝靄ともいえない中、カツミの姿が竹やぶの中にぼんやり見える。
竹林は傾斜がきつい。僕は、もっと平らなところで掘っているのだとばかり思っていた。雨の後で斜面は滑る。転びそうになりながら、何とか竹につかまり登っていく。カツミの傍まで行く。彼は幅五センチほどの細い鍬で掘っていた。
わずか一センチか二センチ頭を出したタケノコを見つけては、傷を付けないように、周りから掘り進めていく。根がつながっているので根をエイヤっと断ち切り、その後、鍬の一撃で掘り起こす。タケノコはほんの少し顔を出しているだけ。大部分はまだ地中にあり、最初はなかなか素人には見つけられない。しかし、慣れてくると、だんだんと僕でも見つけられるようになってきた。
きつい傾斜を、下から上へと掘り上がっていく。カツミによると、傾斜のきつい方が良いタケノコが出ると言う。また、掘るときに腰を屈めなくてよいので「掘り手」は楽だそうだ。タケノコには一年おきに裏年と表年があり、今年は裏年に当たるそう。去年より数は少ないそうだ。それでも数ヘクタールある竹林に、無数のタケノコが顔をだしている。その中の少しは、将来の親竹として残しておくとのこと。毎日掘っておるカツミや高野父でさえ、大物、難物にでくわすと、
「こんちきしょう、ほんまにもう。」
と呟きながら掘っている。さすがに数本続けて掘ると疲れるので、カツミは時々腰を伸ばし、空を仰いで、煙草を吸っている。
ふたりの「掘り手」と、ひとりの「運び手」が現れ、五人での作業となる。応援団は高野家の親戚や、カツミの友人とのこと。掘られたタケノコは分かり易い場所に数本ずつ置かれる。それを、篭をかついだ「運び手」が、モノレールまで運ぶのだ。掘る人も大変だが、運ぶ人も大変。重い篭を肩に担ぎながら、傾斜の激しい穴だらけの山肌を歩くのだから。モノレールが一杯になると下へ降ろされ、収穫物は軽トラックに積み替えられる。そして高野家の裏庭に運ばれ、水洗いと仕分けが行われる。
作業をしておられる人たちの中で専業農家は高野父だけ。カツミは看護士だし、他の方々もそれぞれ職業を持っておられる。朝の五時から七時までタケノコ掘りの重労働をした後、フルタイムの仕事をしておられる。大変な日々。全くもって頭が下がる。
お疲れ様でした。本日一番の大物と一緒に記念撮影。