タケノコづくし

 

タケノコ、アザミ、コゴメのてんぷら。これが外側カラッと、内側ジューシーで美味い。

 

「こんにちは。」

そう言って高野家の玄関に入ると、朝からお手伝いに来ている義母が顔をだした。

「五時に三名予約しました曽根と申しますが。」

もちろん冗談。まだまだお客さんがおられて厨房は忙しいらしい。義父とふたり一度座敷に通された。僕は調理場に入って行き、妹のチエミ、その夫のカツミ、高野のお母さん、甥のカッチとヒロに挨拶する。ヒロは生簀からすくったイワナを焼いている。家族総出で皆忙しく立ち働いている最中。僕は、客のような、身内のような、微妙な立場だ。連休の最終日のその日は、昼に団体客がふたつも入り、特に忙しい日だったとか。夕方になり少し落ち着いたので、お手伝いに来ていたカッチのガールフレンドのユウカと、カツミの妹さんは先に帰ったという。

ともかく義父と僕は座敷で待っていた。高野家はとにかく広い家で、今は襖で仕切ってあるが、仕切りをはずせばテニスコートくらいの座敷がある。義父が天井板や欄間に、いかに高級な材料を使い、手の込んだ細工がされているかを説明してくれる。端午の節句ということで、床の間には立派な武者人形が飾ってある。カッチの初節句に、曽根家から高野家に贈られたものだという。

「百万円以上したものを、人形店が親戚やったもんで、数十万円負けてもらった。」

と義父が言った。二人の座る座敷の襖絵は「猛虎」。阪神タイガースファンの僕にとっては、なかなか粋な計らいだ。

料理が順に運ばれてくる。タケノコの刺身、山菜の酢味噌和え、若竹煮、天ぷら(タケノコ、コゴメという山菜、アザミの葉)、タケノコご飯に、タケノコの漬物、味噌汁。それに特別料理としてイワナの塩焼きとヤマメの唐揚。運んできてくれるのが、義母だったり、妹だったり、甥っ子だったりして、必要以上に恐縮してしまう。

義母がようやく賦役から解放されて席についた。何せ、一日中「タケノコの天ぷら係」をやっていたので、もう見るのも嫌なのでは。今日料理に使われているタケノコは、皆その日の朝掘られたもの。新鮮なタケノコはみずみずしくて美味しい。また、アザミの葉の天ぷらは外側カリカリ、中ムッチリでなかなかのもの。すごく美味しいと言うと、

「わたしが揚げたのよ。」

と義母が少し得意そうに言った。

最後の客として高野家を辞した。帰る前に挨拶をしに厨房へ行くと、後片付けの真最中。連休が終わって、皆の顔に安堵の色が浮かんでいる。義父母と三人で家を出るとき、義母が払おうとした食事の代金を受け取るかどうかで、妹ともめていたようだが、どうなったのか、結果は知らない。義弟のカツミとは、翌朝五時に会う約束をして分かれる。実家へ戻ると、まだ八時半、疲れていたし、明日は四時半出発なので、早々と床に入り、九時には眠ってしまった。眠っている僕の耳に、時折激しい雨の音が聞こえた。

 

イワナの塩焼き係の甥っ子のヒロ。

 

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