兵隊さんは特別待遇
数年前のボンマラソンのゴール。
二日目の夜も八時間熟睡。ドイツでは空気が会うのか、水が合うのか、良く眠れる。水曜日の朝、恒例の散歩の後、朝食、チェックアウトを済ませ、また七時半から働き始める。昼前にカロラが顔を出す。彼女も交え、デートレフ、クリスティアンに進捗の説明をする。今日中に全部は到底終わらないが、重要なインターフェースは責任を持って、テスト、調整したことを報告。残りの小さな部分は、ドイツ人の同僚にお願いすることにする。
午後六時の飛行機に乗ることになっていたので、午後四時過ぎにオフィスを出る。またデートレフの運転でデュッセルドルフ空港に向かう。
「きみの手配は完璧だった。近くの静かなホテル、自由に使える車、そして接待なし。こんなストレスの少ない出張は初めて。おかげで夜は寛いだ気分で、毎晩八時間熟睡できた。」
僕がそう言うと、
「そう言ってくれると嬉しいよ。こっちの方が良く眠れるのなら、モトの為にも、また来てもらわなければね。」
普段は無表情な彼が、本当に嬉しそうな顔をしてそう言った。
車がライン河の橋に差し掛かった。デートレフが言った。
「ボンマラソンに出るモトを中央駅まで送って行ったとき、この橋を羊の大群が渡っていて、二十分くらい待たされて、遅れそうになった。あの時は慌てた。覚えているかい。」
「覚えているよ。列車がマラソンのスタート十五分前にボンの駅に着くので、列車の中で準備体操していた。」
懐かしい思い出である。彼とは空港で別れる。
帰りの飛行機でもまたトラブルがあった。空港に着くと、十八時〇五分の僕のフライトが、「遅れ」で一九時二五分の出発予定になっていた。バーでゆっくりとビールを飲み、隣のオーストリア人の若い女性と話をし、良い気分で十八時半にゲートに行く。すると僕の乗る飛行機は出た後だった。BAのカウンターへ行くと、
「あなたがミスター・カワイですか。何度か名指しでお呼びしたのですが、来られなかったもので。」
モニターの表示は、と尋ねると、
「『少しの間』間違って表示されていたのです、ちょうどその時ご覧になったのですね。」
「嘘つけ。何が『少しの間』や。俺は少なくとも三回は確認したで。」
と思うが、口には出さない。ここで喧嘩をしても、もう手遅れ。幸い午後八時発の最終便に空席があったので、それに乗れることになった。
ロンドン行きの最終便では、やたら賑やかな連中に囲まれた。メンヒェングラードバッハのNATO軍本部に勤務する、英国陸軍の兵士たちだった。隣の兵士は、機内食に付いてくるワインの小瓶をひとりで四本ももらって、すっかり良い気分になっている。普通頼んでも、一本しかくれないのに。BAは英国の航空会社だけあって、自国の兵隊には格別にサービスが良いらしい。