三人の同僚
2000年、デートレフとハーフマラソンを走った後で。
ワタルはこのときジュニアの部で優勝。
飛行機は珍しく、定時十時にデュッセルドルフに着いた。空港には、デートレフが迎えに来てくれていた。二〇〇〇年の春から一年間ドイツ支店で働いていたときから、彼とは特に懇意にしている。彼も走ることが好きなので、よく一緒に走ったものである。英国に帰った後も、毎年一度ケルンかボンへマラソンを走りに行くときは、いつも彼の家で泊めてもらっていた。従って彼の奥さんとも友達である。
デートレフは百九十センチ近い背丈、「インディアナ・ジョーンズ」の主演男優ハリソン・フォードに似ている。ハリソン・フォードも六十歳を越え、今年封切られた「インディアナ・ジョーンズ」の最新作では、彼がすごく老けていたので驚いた。第一作目に出てくる彼とデートレフは実によく似ている。
彼の車で、ドイツ支店のある、メンヒェングラードバッハに向かう。車の中で彼と話をするが、頭の中でピキピキ音がするのが分かる。ドイツ語の本はいつも読んでいるのだが、ドイツ語を話すのは週に一度、ピアノの先生のヴァレンティンとの一時間だけ、当然錆びついている。それを無理矢理使おうと努力すると、最初ピキピキと音がする。いつも二時間くらいでこの「ピキピキ感」は薄れ、自然にドイツ語が口から出るようになる。
ドイツ支店に着き、元同僚のカロラ、クリスティアンと三人で、今週の作業の打ち合わせをする。カロラはその週、両親の引越しの手伝いで休暇を取っているのだが、僕に作業の段取りを説明するために、その日の午前中出社してくれていた。彼女は午後にはいなくなり、その後はクリスティアンが仕事のパートナーである。
カロラは僕がドイツ支店で働いていたときに加わったメンバーである。外見は「どこにでもいる太ったおばさん」なのであるが、彼女の頭脳は明晰、優秀な技術者であり、パーフェクトな英語を話す。独身で、ティッツという小さな村の農家を改造した一軒家に引き篭もり、そこに十三匹の猫と一緒に住んでいる。普段から他人より一オクターブ高い声で話すのだが、すぐパニックになって、その時は声がもう一オクターブ上がる。何度かロンドンの我が家に滞在し僕の家族とも懇意にしている。娘たちはよく「カロラさんの真似」をして笑い転げていた。
クリスティアンは、頭に一本の毛もない。真剣な顔をすると、一見「〇〇七」の敵役みたい。怖そうなのである。しかし、実は非常に穏やかな性格である。とにかく、怒らず、焦らず、落ち着いてにこやかに仕事をしている。従って、ユーザーには非常に受けが良く、何か問題があるとまず彼のところに連絡が来るし、彼もそれにいつも誠心誠意答えている。亡くなった母方の祖父もクリスティアンのような性格だった。僕も、クリスティアンや祖父のようになりたいと思うが、おそらくは無理であろうが。
二〇〇〇年当時は、ソフトウェア開発チームは、カロラ、クリスティアン、僕の三人しかおらず、三人で時々馬鹿な話をしながらも、和気藹々で仕事をしていた。その頃を懐かしく思い出す。